認知症の人に怒ってはいけないと思いつつ、つい言葉がきつくなってしまった・・・。何度言い聞かせても同じことを繰り返すので、どうしても腹が立ってしまう・・・。そんなこと、ありますね。
でも認知症の人は、自分の気持ちや感覚に正直に行動しているだけ。それをあなたが怒ってしまうと、マイナスの効果をもたらしてしまいます。
「じゃあどうすればいいの?」そんな切実な悩みに、シチュエーション別の対応法をご紹介。「怒らず」「責めず」、認知症の人の困った行動に上手に対応するさまざまなアイデアで、臨機応変に乗り切ってくださいね。
認知症の人にやってはいけないこと=「怒る」「責める」
認知症の人への対応として、もっともやってはいけないこと。それは、「怒る」こと、「責める」ことです。
認知症の人は怒られたり責められたりすると、不安な気持ちになってしまいます。そうすると萎縮して本来できることもできなくなったり、逆に怒りで不安を紛らわそうとするなどして、認知症の周辺症状(BPSD)がよけいに悪化してしまうことに。
さらに自分が悪いことをしたという自覚はないので、ただ「怒られて怖かった」というイヤな感情記憶だけが残ります。
認知症の場合、何が起こったかという記憶は忘れやすくても、感情記憶はしっかりと残ることが多いので、「この人は怖い」「この人と話したくない」と強く思い込んでしまうことにもつながります。
その結果、介護に非協力的になったり、介護拒否などの困った事態につながることも多いのです。
正しい対処方法としては、まずは本人の言い分を受け入れること。それにより、気持ちを落ち着かせ、安心させることが大切です。また、怒っているつもりはなくても「そんなはずはない」と否定することも、認知症の人を不安にさせるので避けましょう。
怒らないで場をおさめる、認知症の症状別正しい接し方
「ヘビがいる!」:認知症の症状「幻覚」
認知症の人は、虫やヘビなど、実際にはないものが見えたり、聞こえるなどと訴えることがあります。
正しい対処方法:追いはらう動作をして「もう大丈夫ですよ」と声をかける
消臭スプレーを撒くなどして「逃げていきましたからもう大丈夫ですよ」などと声をかけてみましょう。空間を見通しよく片付けて、部屋を明るく、居心地よくすることも有効です。
相手には見えているのですから、「そんなものはいませんよ」と否定するのは逆効果です。共感しつつ、安心させてあげることが大切。否定するとよけいに不安になり、孤独感をつのらせてしまいます。
「まだご飯を食べていない」:認知症の症状「記憶障害」
認知症の物忘れは、新しい記憶から始まるのが特徴です。今言ったばかりのことを繰り返したり、ご飯を食べた直後に「まだ食べていない」と言ったりします。
正しい対処方法:「今支度していますから、ちょっと待っていてくださいね」と答える
本人は食べた記憶がまったくないので、「今食べたでしょう」と説得しようとしてもムダなこと。あまり言うと、「自分はもう何もわからなくなってしまった、もうダメだ・・・」と落ち込んでしまいます。
今の気分を満足させてあげるように、声かけで工夫してみてください。
たとえば「ごめんなさいね、今支度をしているので、とりあえずお茶を飲んでいてください」など。それでも欲しいという場合は、クッキーとお茶などの間食で気持ちを紛らわすのも良いアイデアです。
「〇〇に財布を盗られた」:認知症の症状「もの盗られ妄想」
認知症になると、きちんとした状況判断が難しくなり、大切なものがなくなると、すぐに「盗まれた!」と単純な思考をしてしまうことがあります。これには居心地の悪さや孤独感が関係しているともいわれています。
正しい対処方法:一緒に探し、見つかったら「大切なものだから、しまう場所を決めておきましょうね」
「盗るわけないでしょう」と怒ったり否定すると、よけいに興奮してしまいます。
「それは大変!」と共感を示し、「一緒に探しましょう」「どこかにあるはずですよね」と穏やかに対応しましょう。見つかったら、しまう場所を一緒に決めておくと良いでしょう。
見つからないことがわかっているときは、しばらく一緒に探してから、「お茶を飲んで少し休憩しませんか」と話題をそらしたり、その場を少し離れるなどで、落ち着いてくれることがあります。
家の中や外を歩き回る:認知症の症状「徘徊」
徘徊は、自分のいる場所や時間がわからなくなること(見当識障害)と、長年の生活習慣が結びついて起こります。たとえば、「会社に出勤しなくては」「家に帰って家族のためにご飯を作らなくては」などが挙げられます。
まずは本人が、何のために移動したいと思っているのか、よく聞くことが大切です。
正しい対処方法:しばらく一緒に歩いて話をし、落ち着いたら戻る
施設の中や家の中の場合は、自分の部屋が見つからない、トイレが分からないなど、単純に迷子になっていることもあります。
外へ出て行こうとする場合は、この場所が「居心地悪い」と感じている場合も。本人がストレスや不安を感じるものがあるなら取り除くなどして、居心地よくすることを心がけてみましょう。
昼夜逆転して歩き回るようなら、日中の運動量を増やすことも検討してみましょう。朝起きたら太陽の光を浴びるようにすると、体内時計が整って夜眠りやすくなります。
そのほか、自分の居場所や役割、存在価値を見出すことで、徘徊が治まることもあるようです。
「○○さんはこれがお上手ですから、ぜひお願いします」「いつもこれをしていただいて、助かります」などと、ふだんから積極的に役割をお願いする方法もおすすめです。
トイレが間に合わなかった:「失禁」
この場合も、とがめたり、責めるような口調にならないように気をつけて。他の人に知られないよう、素早く静かに片付けましょう。プライドが傷つけられると、失禁を隠したり、便秘になったりと、新たなトラブルの種になることもあります。
失禁の理由で多いのは「トイレの場所が分からなくて間に合わない」や「尿意の感覚が分かりにくくなっている」など。
正しい対処方法:「もっと早く声をかければよかったですね、すみません。あちらで着替えましょう」と声をかけ、着替えを手伝う
失禁を防ぐには、トイレまでの行き方を分かりやすくしたり、こちらから声かけしてトイレに誘導することが役立ちます。
尿意、便意の感覚がわからなくなっている場合には、パンツ型おむつや尿取りパッドなどを利用するのも手。ただ、排泄周期をチェックして、なるべく汚れる前にトイレに誘導するようにしましょう。
>性的逸脱行動、攻撃的な言動など、その他の問題行動への対処法も見る
参考にしたい対人関係の3原則
アメリカの有名な実業家であり自己啓発作家、デール・カーネギーによると、「人を動かす」基本は、以下の3つだと言います。
- 受け入れる
- 否定しない
- ほめる
人は誰でも、「認められたい」「ほめられたい」と願っています。その気持ちを満たしてくれる相手には好意を持ち、相手が喜ぶことをして、もっとほめてもらいたいと思うのです。
これは認知症の人にもそのまま当てはまります。認知症になると、感情のコントロールが効きにくくなり、ささいなことでも怒ったり泣いたりすることがあります。
「否定されてプライドが傷ついた!嫌だ、腹が立つ」と思うと、それを押し殺したり、取り繕うことが難しい状態。だからこそ、よけいに「人を動かす3原則」の効果が顕著にあらわれやすいともいえます。
認知症の人と良い関係を築くには、否定せず受け入れ、ほめること。認知症ケアのストレスをなくし、スムーズな介護に役立つ3原則、ぜひ覚えておいてください。
怒るのをガマンするのではなく、理由に目を向けてみる
介護する側にとっても、ただ怒りたい気持ちを抑えつけることは、大きなストレス。無理やりガマンするのではなく、なぜ認知症の人がその行動をしているのか、理由に目を向けてみましょう。
それぞれの行動にはその人なりの、ちゃんとした理由があるもの。そこを理解して共感してあげることで、結果的にこちらも心穏やかに対処できることが増えてきます。
「認知症だから仕方ない」のではなく、「Aさんはプライドの高い方だから、こういう言い方をすると伝わる」、「Bさんは責任感が強い人だから、こういう風にお願いしてみよう」などなど、困った行動を防ぐための工夫はいろいろ考えられます。
相手の心をわかろうとして想像を働かせていると、その気持ちはしっかり相手に伝わります。
そのうちに「私の名前を覚えて、声をかけてくれた!」「私を見て、微笑みかけてくれた!」そんなうれしい出来事が増えてくるかもしれません。