高齢者の介護にたずさわっていると直面する、よだれの問題。本人も気づかないうちによだれがだらだらと出て、タオルを巻いてもいつのまにかグッショリ・・・。ひどくなると、よだれが出すぎて食事がうまく飲み込めなくなってしまうこともあります。
出すぎるよだれは、高齢のせいなのか、それともなにかの病気なのか、介護をしている身としては心配ですね。「おかしいな」と思ったらまずは専門医にかかることが大切です。また、介護をする側も、よだれの原因にはどのような可能性が考えられるのかを知っておくと異変に気づきやすくなり、医師とのやりとりもスムーズになるでしょう。
そこでこのコラムでは、よだれが出る原因として考えられる可能性と、日々の介護で気をつけたいポイントをご紹介します。
高齢者のよだれがたくさん出る原因は?
唾液は通常、無意識のうちに飲み込んでいるものですが、なんらかの原因で飲み込みづらくなると、よだれとなって口から出てきてしまいます。飲み込みづらくなる原因として考えられることは、以下の通りです。
・加齢による口腔機能の低下
高齢になると、舌や唇の機能が低下して口を閉じにくくなってしまいます。食事中の食べこぼしやよだれは、噛む力や飲み込む力が低下しているサインかもしれません。
・入れ歯の具合が悪い
入れ歯が口にフィットせず、うまく飲み込めていない可能性もあります。合わない入れ歯は、よだれの問題だけでなく、歯ぐきや粘膜などの異常を引き起こす原因にもなるので、「入れ歯が痛い」「噛みにくい」といった症状があれば作り直しが必要です。
・心因的要因
ストレスが原因で、のどに違和感を覚えることがあります。また、ストレス性の胃潰瘍や胃炎によってものどがつかえたり、飲み込みづらく感じることがあります。環境の変化や人間関係の悪化など、心を悩ませている原因がないか注意してみましょう。
・薬の副作用
うつ病などで処方される抗精神薬の副作用によって、口の筋肉がこわばり、よだれが出てしまうことがあります。唾液の量そのものが増える副作用もあります。
深刻な病気がひそんでいることも
よだれにつながる症状として真っ先に思いつくのが、のどや口のなかの炎症です。しかし、口には直接関わらない病気でも、唾液の分泌が増えてよだれが出ることがあります。場合によっては深刻な病気がひそんでいることもあるので、「たかがよだれ」と軽く考えないようにしましょう。
・口内炎や扁桃炎
口の中やのどに痛みがあると、食べ物がしみたり飲み込むときに痛みを感じたりして、飲み込みにくくなることがあります。
・パーキンソン病
パーキンソン病は、神経筋疾患のひとつです。神経の伝達経路に異常が生じて、神経と筋肉の連携がうまくいかないため、体のさまざまな部位がうまく働かなくなります。その症状として、飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害や、唾液の量が増える流涎(りゅうぜん)が起こることがあります。
・脳卒中
脳の血管に異常が起こると、突然体の半分にだけ力が入らなくなることや、口や舌、喉を動かす筋肉が麻痺することがあります。口の片側からよだれが出ている場合は要注意。また、脳卒中の後遺症としてよだれが出ることもあります。
・がん
咽頭がんや喉頭がん、舌がんなどは、のどや舌に痛みやしびれを感じるため、飲み込みにくくなります。食道がんの場合は、飲み込むことで食道に痛みを感じます。
・認知症
認知症は、さまざまな病気が原因となって脳の働きが低下する病気です。その症状のひとつとして、嚥下障害があります。とくに、レピー小体型認知症(※)は、顎や舌に障害が出て飲み込めなくなり、よだれが出ることがあります。また、処方される薬の副作用も、唾液の分泌量が増えてよだれが出る原因になります。
※アルツハイマー型認知症に次いで患者数が多い認知症。手の震えや手足のこわばりなど、パーキンソン病のような症状が生じます。
よだれが多いときの対処法や注意したいポイント
高齢者のよだれは、健康的な生活を害するおそれや、深刻な病気がひそんでいる可能性があります。できるだけ早く、医師に相談することをおすすめします。
また、よだれが気になる高齢者への介護では次のようなポイントに注意しましょう。
・口のトレーニングをする
加齢による口腔機能の低下が原因でよだれが出ている場合は、口のまわりの筋力トレーニングで改善することもあります。「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を発声するだけの「パタカラ体操」や、「あ」「い」「う」「べ」を発声する「あいうべ体操」なら、日々の介護に手軽に取り入れることができます。また、頬や舌、唇をやさしく刺激するマッサージも効果的。口まわりの筋肉が衰えると食べにくくなり、さらなる機能の低下をまねきます。食事がとれなくなってしまう前にトレーニングをはじめましょう。
・誤嚥(ごえん)に注意する
飲み込む機能が低下すると、気管に食べものが入ってしまうことがあります。このとき、食べものと一緒に細菌が気管に入り込み、肺炎を引き起こす「誤嚥性肺炎」の危険があります。誤嚥しないよう、食事メニューに工夫を。食べるときの姿勢は、上向きではなく前かがみになるように気をつけましょう。
・清潔を保つ
よだれで衣服が汚れてしまうときは、高齢者用のエプロンやタオル地のスタイを使ってみましょう。また、口や首によだれが付いたままでは肌荒れを起こしてしまうので、清浄な布でこまめに拭いてあげることも大切です。
・水分補給をこまめに
病気や薬の副作用によって唾液の分泌量が増えると、体内の水分が失われ、脱水症の原因になります。もともと高齢者は水分を控えてしまう傾向にあるため、意識的に水分補給をすることが大切です。
・明るく声かけを
ストレスが原因で飲み込みづらくなっている場合もあります。気持ちが晴れるように、声のトーンや表情もできるだけ明るく話しかけましょう。
命にも関わるよだれのこと。どの診療科を受診すればいい?
拭いても拭いても出てくるよだれは、本人はもちろんのこと、介護をする側にとってもまいってしまいますね。しかし、よだれは口の中だけの問題ではありません。嚥下障害により危険な誤嚥性肺炎を引き起こしたり、背景にがんなどの深刻な病気が隠れていることもあります。今出ているよだれをどうするか、ということより、どうして出ているのか、原因をつきとめることが重要。
まずは、信頼できるかかりつけ医に相談しましょう。かかりつけ医がいない場合は、摂食・嚥下の専門である歯科や口腔外科、耳鼻咽喉科で受診を。体を障がいから回復させるリハビリテーション科でも受診可能です。専門家に頼って、解決策を見つけましょう。