ICT(情報通信技術)とは、簡単に言ってしまえば「ネットワークを活用して情報を共有すること」。介護業界では主に「今まで紙で管理していた情報をデジタル化することにより、業務負担を軽減すること」を目的に取り入れられています。
具体的には「介護ソフト」を中心に、「タブレット端末」「スマートフォン」「インカム」などのICT機器を導入。今まで手書き、手入力していた各種記録が電子化・自動化でき、業務が効率化されます。情報がデジタル管理されることで、情報共有やデータ連携も促進され、利用者に対するケアの質を向上できることもメリット。
ケアをする人、受ける人の両方にメリットがある介護のICT化。最近の介護におけるICT事情や、2,560事業所へのアンケート※で分かった10のメリット、併せて注意点やデメリットもご紹介するのでチェックしてくださいね。ではさっそく見ていきましょう。
進化する介護分野のICT
費用面の心配はもちろん、「スタッフが使いこなせるか不安」といったハードルから、とくに中小の事業所で普及が遅れていた介護分野のICT。しかし最近はソフトの操作性向上や補助金制度の拡充といった後押しもあり、導入に踏み切る事業所が急増しています。
「直感的に操作できる」「音声入力ができる」「ベッドセンサー等とのIoT連携がある」「LIFE(科学的介護情報システム)に対応」「AIがケアプラン作成をサポート」といった機能は、最近の介護ソフトに盛り込まれているか盛り込まれつつある新しい機能なので、ぜひチェックしてくださいね。
さらに今後は厚生労働省の方針により、異なる介護ソフトを使っている事業所間でも、ケアプランなどのデータのやり取りがスムーズに行えるように「ケアプラン標準仕様」の整備が進む見込み。介護業界全体でICT化への取り組みが進められています。
現場に笑顔が増える10のメリット
1.間接業務の時間が減った!
間接業務とは利用者様と直接接しない業務のことで、たとえば情報の記録、入力や各種会議などを指します。ICTを取り入れた事業所の9割以上で、この間接業務の時間が減少。減った時間は大半が1時間未満(職員1人当たり1月平均)ですが、3時間以上減ったという施設も約1割を占めています。
これだけ間接業務時間を減らすことができれば、その分直接ケアの時間を増やしたり、残業を減らすことができますね。
2.単純ミスが減った!
ICTを取り入れると、今まで毎回手書きしていたサービス提供記録、業務日誌などがデジタル端末を通じて入力できるようになります。手元のスマホやタブレットにその場で音声入力すれば、手軽で書き忘れもナシ。入力したデータはシステム内で連携されるので、あちこちに転記する必要もありません。
また導入するシステムによっては体温や血圧などのバイタルデータも、Bluetooth通信対応のバイタルセンサー等と連携することで、いちいち入力する手間なく自動で取り込み可能に。こうした便利な機能によって、書き写しミスや計測忘れなどの人為的なミスが大幅に削減できます。
3.ケアの質が上がった!
利用者様の記録や情報が手元の端末でいつでも確認でき、書式も統一されて見やすくなることは、利用者様の行動分析にも役立ちます。たとえば排せつ記録が見やすくなることで排せつのサイクルが分かり、トイレにタイミングよく誘うことができるなど。
また間接業務の時間が削減できる分、利用者様と直接ふれあうケア業務をきめ細かく、ていねいに行えるようになります。ICTを導入して2年経つ事業所では、7割もが「支援の質が上がった」と回答。ICTの活用が、質の高い介護につながっているようです。
4.心理的な負担が減った!
今までは「介護記録をできるだけ詳しく、ていねいに書きたい」気持ちと「時間内に終わらせなくてはならない」気持ちで職員は板挟みになりがちでした。そのせいでケアに焦りが出たり、早めに出社・残業してカバーしたりと、心理的にも肉体的にも大きな負担に。
記録作業が音声入力やバイタル自動転送などですぐに済めば、そうした焦りから解放されます。また転記ミス等をしないよう気を遣うこともないので、心にもグンと余裕が。職員のメンタルケア対策にも良い影響がありそうです。
5.事業所内の情報共有がスムーズになった!
一人の利用者様のケアに介護職や医療職など多くの人が関わる介護では、情報共有がスムーズになるメリットは大きいもの。ICTを導入すれば、スマホやタブレットさえあれば必要なときに最新情報にアクセスできます。言葉で説明しづらいことは内蔵カメラで撮った画像を貼り付ければOK。介護の専門用語に慣れていない新入社員や外国人スタッフとも、スムーズ&正確に情報共有ができるようになります。
6.介護記録が充実した!
介護記録に必要な情報はプルダウン形式や選択式になっていることが多く、記入もれが起こりにくくなっています。また、記録用紙のあるところまで移動しなくてもその場で入力ができるので、記録しようと思ったことが抜け落ちてしまうこともありません。
音声入力等で手軽に入力できるので、ちょっとした出来事やトピックを書く余裕も生まれます。こうした細かい情報はケア方針の決定に役立つだけでなく、施設での詳しい様子が分かるのでご家族にもとても喜ばれます。
7.ケアプランが充実した!
日々の介護記録が充実したものになれば、どんなケアで利用者様の状態がどのように変化したかが記録からよく分かり、さらに質の高いケアプランにつなげることが可能に。
さらに最近では、登録された情報をもとにAIがケアプラン作成を支援してくれる介護ソフトも出てきています。AIの提案を参考にしてより質の高いケアプラン作成につなげることができたり、経験の浅いケアマネにとっては育成ツールとしても役立ちます。
8.書類の保管場所が削減できた!
今まではさまざまな書類を紙で出力して分類・ファイリングし、棚や段ボール箱に保管していました。しかし書類は増える一方ですし、施設内の保管スペースにも限りがあります。ICTでペーパーレス化を進めれば、空いたスペースに余裕をもってさまざまな備品を保管できるように。一目でどこに何があるか分かり、在庫管理もしやすくなれば、日々の業務効率化にも大きなプラスになりますね。
9.情報漏洩を防止しやすくなった!
紙媒体で情報を管理していると、ファイルを入れたロッカーに鍵を掛け、責任者が鍵を管理することになります。しかしそうすると業務上必要なときに見れなかったり、紛失などのリスクも発生。セキュリティ面で信頼性の高いシステムを導入し、クラウドなどにデータを保存するようにすれば、紙媒体よりも利便性が高まり、個人情報漏洩も防止しやすくなります。
10.職場のコミュニケーションが増えて雰囲気が良くなった!
手元の端末やインカムを通じたやりとりなどで、職員同士のコミュニケーションが活発になるため、誰が何をしているかがよく分かり必要なときに助け合えるなど、職員同士のチームワークが高まります。業務が効率化されることで心理的負担が減り、心に余裕ができることも雰囲気が良くなる大きな理由。
またWebミーティング機能を使えば、コロナ下でも問題なくチームカンファレンスができるなど、多職種協働にも大きなメリットが。これからの時代、ICTはチームケアの推進にも欠かせないものになっていきそうです。
デメリットと注意点
ICTの導入で一番問題になるのは、現場が混乱なく使いこなせるかどうかです。アンケートではうまくいかなかった事例として、「 職員のICT化に対する意識統一やスキルが十分でなかった」「 慣れるまで、想定より時間がかかった」という声が寄せられています。
現場スタッフにはスマホを使い慣れた若い世代だけでなく、パソコンが苦手なシニア世代のスタッフも多くいますので、「使っているうちに慣れるだろう」と軽く考えず、事前のルール作りと研修に時間をかけて取り組みましょう。
介護ソフトを選ぶ際は、導入前、導入時、導入後を通じて、説明会や研修、電話サポートなど、サポート体制の手厚さも重視したいところ。さらに介護分野では、報酬改定などにともなうシステム更新がひんぱんにあるので、それらに柔軟・ローコストに対応できるかどうかも確認しておきましょう。
今こそICT化に取り組もう
高齢化が進み介護の担い手が不足するなか、人手不足解消に役立つとして期待を寄せられているICT。政府の方針もあり、今後ますます介護業界へのICT普及が加速していくことでしょう。
まだ導入していない場合は、まずは自分の事業所のサービス形態に合わせて介護ソフトの候補をいくつか選び、ベンダーに相談するところから始めていきましょう。このとき必ず数社を比較検討することを忘れずに。
都道府県から補助金がもらえる導入支援事業は毎年行われていますが、早めに締め切られてしまうことも多いので、自治体のホームページをこまめに確認することも重要です。補助金とベンダーのアドバイスを上手に活用しながら、ぜひスムーズな導入を実現してくださいね。