
介護サービスを提供する事業所では、介護報酬の請求業務が毎月発生します。
介護職員や介護事務でのキャリアを目指す方のなかには、「介護報酬についてよく知らない」「どのように報酬額が決まるのか」などと疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
介護報酬の請求業務には専門的な知識が求められるため、制度の仕組みや報酬額の決まり方、介護現場への影響について理解を深めておくことが必要です。
この記事では、介護報酬の基礎知識や報酬額が決まる仕組み、改定による影響などについてわかりやすく解説します。
介護報酬とは
介護報酬とは、要介護者・要支援者に介護保険サービスを提供した際に、その対価として事業所に支払われる報酬のことです。
厚生労働省が定めたサービスごとの基準額をベースとして、各事業所のサービス提供体制や利用者の要介護度などに応じて報酬額が決定されます。介護報酬は、介護事業所の安定した経営と職員への処遇に関わる重要な原資となります。
出典:厚生労働省『介護報酬について』
介護報酬が支払われる流れ
介護報酬は、要介護または要支援の認定を受けた利用者に対して介護保険サービスを提供したあと、市町村に介護給付を請求することで支払われる仕組みとなっています。
▼介護報酬が支払われる流れ
画像引用元:厚生労働省『介護報酬の仕組みについて』
支払われる報酬額の財源は、利用者の自己負担分(原則1割)と市町村の介護給付(原則9割)で成り立っており、利用者の所得に応じて自己負担分は1~3割に変動します。
出典:厚生労働省『介護報酬の仕組みについて』
対象となる介護保険サービス
介護報酬の対象となるのは、介護保険の適用となる公的な介護保険サービスに限られます。
介護保険サービスには、大きく4つの種類があります。
▼介護保険サービスの種類
| 種類 | サービス内容 | |
| 1.居宅サービス | 訪問サービス | 訪問介護 訪問看護 訪問入浴介護 訪問リハビリテーション 居宅療養管理指導 |
| 通所サービス | 通所介護(デイサービス) 通所リハビリテーション(デイケア) | |
| 短期入所サービス | 短期入所生活介護 短期入所療養介護 | |
| 2.施設サービス | 特別養護老人ホーム 介護老人保健施設 介護医療院 介護療養型医療施設 | |
| 3.介護予防サービス | 介護予防訪問介護(訪問入浴・訪問リハ・通所リハ) 介護予防短期入所生活介護(療養介護) 介護予防福祉用具貸与 特定介護予防福祉用具販売 など | |
| 4.地域密着型サービス | 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 小規模多機能型居宅介護 地域密着型通所介護 夜間対応型訪問介護 認知症対応型通所介護 など | |
出典:厚生労働省『介護報酬の仕組みについて』『介護保険制度の概要』
介護報酬が決まる仕組み。4つのポイントを押さえよう
介護報酬の金額は、各サービスに定められた単位(点数)を基準として、「地域区分」による調整と、特定要件に基づく加算または減算が行われることによって決まります。
そのため、同じ介護保険サービスを提供していても、事業所の体制や地域によって介護報酬の支給額は異なります。
ここでは、介護報酬の支給額が決まる4つのポイントについて解説します。
ポイント1|サービスの基本報酬額
介護保険サービスには、種類ごとに全国一律の単位数が定められており、1単位当たりの単価は10円と決まっています。
要介護度(1~5)が上がるほど単位数(点数)が大きくなり、基本報酬額も高くなる仕組みとなっています。
▼基本報酬額の算出方法
| 基本報酬額=単位数×単価(10円) |
例えば、「介護福祉施設サービスⅠ(従来型個室)」において、要介護3の方の単位は「732単位」と定められています。この場合の1日当たりの基本報酬額は「732単位×10円=7320円」となります。
※令和6年4月改定の内容を記載しています。
出典:厚生労働省『介護報酬の算定構造』
ポイント2|地域区分と人件費割合
1単位当たりの単価は基本的に10円と決まっていますが、都市部と地方では人件費(賃金水準)に差があります。全国一律の単価に設定すると介護報酬の公平性を欠いてしまうことから、地域ごとの賃金差を調整する「地域区分」が設けられています。
各区分には「上乗せ割合」が設定されており、「1単位=10円以上」になる地域もあります。都市部の地域では上乗せ割合が高く設定されているため、単価が高くなり報酬額も増える仕組みとなっています。
▼地域区分別の上乗せ割合
| 1級地 | 2級地 | 3級地 | 4級地 | 5級地 | 6級地 | 7級地 | その他 | |
| 上乗せ割合 | 20% | 16% | 15% | 12% | 10% | 6% | 3% | 0% |
また、サービスの種類に応じて人件費割合が設定されており、上乗せ割合と掛け合わせて最終的な1単位当たりの単価を計算します。
▼サービス別の人件費割合
| 人件費割合 | 適用されるサービス |
| 45% | 通所介護 短期入所療養介護 介護老人福祉施設 介護療養型医療施設 介護医療院 地域密着型通所介護 など |
| 55% | 訪問リハビリテーション 通所リハビリテーション 認知症対応型通所介護 小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 短期入所生活介護 など |
| 70% | 訪問介護 訪問入浴介護 訪問看護 居宅介護支援 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 夜間対応型訪問介護 など |
※令和6年度から令和8年度までの適用内容を記載しています。
出典:厚生労働省『令和6年度介護報酬改定における改定事項について』『地域区分』
ポイント3|加算の算定
介護報酬制度における加算とは、一定の要件を満たす場合に、基本報酬額に追加の報酬を上乗せして請求できる仕組みです。
人員配置の強化や専門的なケアの提供、職員の処遇改善などに取り組む事業所を評価することが目的とされています。
介護保険サービスによって複数の加算項目が設定されており、それぞれの加算単位数や加算率は異なります。
▼主な加算項目
| 項目 | 加算の種類 |
| サービスに関する加算 | 入浴介助加算 生活機能向上加算 口腔機能向上加算 個別機能訓練加算 など |
| 人員体制に関する加算 | 看護体制加算 夜勤職員配置加算 など |
| 職員の処遇改善に関する加算 | 介護職員処遇改善加算 介護職員等ベースアップ等支援加算 など |
例えば、通所介護(デイサービス)のサービスにおいて「個別機能訓練加算(Ⅰ)イ」の要件を満たす場合には、1日につき56単位を上乗せして算定することが可能です。
出典:厚生労働省『介護報酬の算定構造』
ポイント4|減算の算定
減算とは、基本報酬から一定額が差し引かれる仕組みです。
介護事業所の運営に必要な人員基準を満たさない場合や、サービスの安全性や質の向上に向けた取り組みが未実施の場合など、一定の要件に該当する事業者は、減算して介護報酬を請求する必要があります。
▼減算項目の具体例
| 減算項目 | 対象となるケース |
| 身体拘束廃止未実施減算 | 介護現場での身体拘束をなくすための指針の策定や 職員向けの研修などを実施していない |
| 高齢者虐待防止措置未実施減算 | 虐待防止のための委員会の設置や指針の策定、 職員向けの研修などを実施していない |
| 業務継続計画未策定減算 | 災害発生時の感染症の蔓延などに備えた環境整備や 計画策定が行われていない |
| 人員配置基準未達による減算 | 法令で定められた職員数が不足している |
| 定員超過による減算 | 届け出ている利用定員を超えて受け入れている |
出典:厚生労働省『介護報酬の算定構造』
介護報酬は3年に1度改定される
介護報酬は、高齢者を取り巻く社会情勢の変化や物価の変動などを踏まえて、介護保険制度の持続可能性を確保するために原則として3年に1度見直しが行われます。
前回の改定は2024年(令和6年)4月に行われ、介護報酬の改定率は+1.59%となりました。2003年度から2024年度までの改定率の推移は、以下のとおりです。
▼介護報酬の改定率の推移
| 改定年度 | 改定率(%) |
| 2003年 | -2.3 |
| 2006年 | -2.4(※1) |
| 2009年 | +3.0 |
| 2012年 | +1.2 |
| 2014年 | +0.63 |
| 2015年 | -2.27 |
| 2017年 | +1.14 |
| 2018年 | +0.54 |
| 2019年 | +2.13 |
| 2021年 | +0.7(※2) |
| 2022年 | +1.13 |
| 2024年 | +1.59 |
なお、2014年・2017年・2019年・2022年については臨時改定が行われています。
※1…2005年10月改定分を含めた率。
※2…2021年9月までコロナ下での臨時報酬上乗せが適用。
出典:内閣府『介護保険費用・介護報酬改定・保険料・利用者負担の推移』/厚生労働省『令和6年度 介護給付費等実態統計の概況』
どのような内容が見直されるのか
介護報酬の改定では、物価の変動や介護ニーズなどに応じて、主に4つの項目について見直しが行われます。
▼介護報酬改定で見直される項目
| 項目 | 具体例 |
| 1.利用者の自己負担割合 | 各サービスの負担割合や利用者の所得基準の見直しなど |
| 2.各サービスの基本報酬 | 単位数の引き上げ・引き下げや、サービスの性質に応じた単位区分の 変更など |
| 3.地域区分の変更 | 基本報酬への上乗せ割合の引き上げ・引き下げ、地域ごとの該当級地の 変更など |
| 4.加算・減算項目の変更 | 各項目の新設、算定要件の追加・変更、単位数または乗率の変更など |
介護施設や職員にどのような影響があるのか
介護報酬が改定されると事業所の収益構造が変わり、現場で働く職員にも影響があります。
特に加算項目・要件の見直しによって取得できる加算の種類や数が変わると、事業所が得られる報酬額が変わります。
人員体制の強化や専門性の高いサービスの提供、職員の処遇改善などに取り組むことにより、多くの加算算定が可能になり、事業所の収益向上に直結します。その結果、職員や利用者にとってもさまざまなメリットが期待できます。
▼より多くの加算の算定に取り組むメリット
- 質の高いサービスの提供による利用者・家族の満足度向上
- 事業所の評価向上による利用希望者の増加
- 業務体制の見直しによる働きやすさの向上
- 職員の給与アップによる人材の採用促進 など
介護報酬改定を踏まえたケア体制を整備することが重要

介護報酬は、事業所の安定した経営と職員の処遇に関わる重要な制度です。特に覚えておきたいポイントは、以下の3つです。
- 基本報酬は「各サービスの単位数」をベースに地域ごとの上乗せ割合で算出する
- 一定要件に該当する場合には、基本報酬から加算・減算を行う
- 事業所の収益を向上させるには、減算の回避と加算の取得が必要
介護報酬の請求業務に携わる方は、現場の介護記録や利用者の負担区分、法改正後の加算要件、各サービスの単位数などを踏まえて、正確な算定を行うことが求められます。
より多くの加算を取得して介護サービスを持続的に提供できるように、介護報酬改定の内容に基づいたケア体制の整備に取り組みましょう。










