介護サービスの生産性向上とは?メリットと取り組み方

使えるハウツー

生産性向上
出口の見えない人手不足のなかにある介護業界。そこで今、注目されている取り組みが「介護サービスの生産性向上」です。

わかりやすく言うと、「普段何気なくしている業務のムダに気付き、もっと効率よくできる方法を見つけ出してスタッフが共有する」こと。生産性を向上していくことで、同じ仕事をこなしながらも残業を減らせたり、本来の仕事に取り組む時間がとれるようになります。

仕事のやり方を変えるだけでスタッフの負担を減らせたり、サービスの質を上げることができるのは魅力的ですね。さっそく下記で生産性向上のメリットと、その取り組み方についてくわしく見ていきましょう。

介護サービスの生産性とは?

生産性とは、「Output=産出」 を「Input=投入」で割ることで算出する指標です。介護の分野において言えば、「介護労働者がどのくらいの効率で成果を生み出しているか」を数値化したものになります。

生産性が低ければ、同じ仕事をこなすにも長い時間がかかるか、たくさんの人員が必要になります。逆に生産性が高ければ、短い時間または少ない人数で、仕事を終わらせることができるということになります。

少子化が進む日本社会において、介護の労働人口を増やすことは簡単ではありません。そのため、生産性を上げることで成果を増やして残業を少なくしていこうというのが、介護サービスにおける生産性向上の取り組みです。

厚生労働省では、介護分野の生産性向上のための取り組みとして、無料オンラインセミナーやグループワークなどを行っています。興味をお持ちの方は、これらに参加してノウハウを得るのもおすすめですよ。

>介護分野における生産性向上について(厚生労働省ホームページ)

改善ポイントは「3M」

3つのポイント
取り組みではまず「ムリ」「ムダ」「ムラ」の3つのM(3M)に着目して、業務を見つめ直すところから始めていきます。「これ、よくある!」という共感の声が多く集まりそうな具体例をいくつか紹介しましょう。

まず介護現場でよくある「ムリ」の例から。大柄な利用者様をスタッフ一人で人力で移乗介助する、高いところにあるものを背伸びして取ろうとする、といったものが挙げられます。体に負荷がかかってケガや事故につながったり、作業に時間がかかるといった問題が発生しています。

「ムダ」の例としては、同じ内容を違う帳票に何度も転記している、ファイルが整理されておらず使うたびに探さなくてはならないなど。一つひとつの作業にはそれほど時間はかからなくても、積み重なることでスタッフの気力や体力を奪ってしまいます。

「ムラ」は、職員によって介護ロボットの使い方に差がある、介護記録の記載の仕方が人によって違うなどで、仕事量やサービスの質にばらつきが生じている状態です。レベルの高いスタッフに合わせて均一化できれば、生産性は大きく向上するでしょう。

生産性を向上させる7つの糸口

介護の現場にあふれているたくさんの3M。いったいどれから取り組んでいけばよいのかわからない、という声も聞こえてきそうですね。厚生労働省作成のガイドラインでは、生産性向上の足がかりとして7項目を紹介しています。

すべてを一度に行う必要はありませんので、自施設での取り組みがイメージしやすいものから、少しずつ始めていきましょう。

  1. 職場環境の整備
    たとえば仕事で使う備品や消耗品。使う頻度や特性にあわせて整理整頓できていれば、必要なものがすぐに取り出すことができ、さっと作業に取りかかることができますね。探し回る時間が節約でき生産性が向上するだけでなく、片付いていないものにつまずいたり、ムリに品物を取ろうとして腰を痛めるといったトラブルも防止でき、安全性にも貢献します。
  2. 具体的には、まず要らないものを捨てることから始めます。必要な品を使いやすい場所に配置したら、最後に、その状態を保つためのルールをスタッフに徹底していきましょう。

  3. 業務の明確化と役割分担
    テーブル拭きや換気、加湿器の給水・・・業務表には記載されないような細かな業務はたくさんありますが、これまでとくにスポットを当てられることはなかったのではないでしょうか。こうした「名もなき業務」を洗い出し、適切に分担することで生産性を上げられることがあります。
  4. 具体的には、それぞれのスタッフがいつどこで何をしているのかを10分単位で1日細かく調査します。その結果を分析し、たとえば掃除や洗濯など介護スタッフでなくてもできることはアウトソースしたり、介護ロボットを活用したり、同じ利用者様に対するケアはできるだけまとめるなど、効率化につながるアイデアを試していきます。

  5. 手順書の作成
    手順書というとマニュアルと同じように思うかもしれませんが、少し違います。業務を熟知したベテランでなければできないと思われていた業務を、誰がやっても同じレベルでできるようにすることが目的です。
  6. 手順書にはベテラン職員がやっていることだけでなく、判断の基準などもくわしく盛り込みます。ただしできるだけ文字を減らし、写真やフロー図などを活用。読み込まなくてもぱっと見てすぐに分かるものにすることが大切です。

  7. 記録・報告様式の工夫
    介護記録や報告の作成業務は、毎日のことなので効率が悪くても慣れてしまいがちです。しかしいざ見直してみると、項目が複数の帳票に重複していたり、記録のためにわざわざパソコンまで移動しなくてはならなかったりと、いろいろなムダが見つかることも。
  8. タブレット端末やスマホからリアルタイムで入力できるようにして、移動の負担をなくしたり、重複する項目は自動で転記されるようにするなど、ICTを活用することで解決できることが多くあります。

    また紙の帳票でも、向きを変える、書き方を統一する、ヒヤリハット記入欄を設けて観察力を高めるなど、書式の工夫で生産性の向上に貢献できることもあります。まずは今使っている帳票や項目を洗い出すところから始めてみましょう。

  9. 情報共有の工夫
    館内でのスタッフ間の連絡は、とくに施設が複数階に分かれた構造になっていると大変です。PHSでは今誰の手が空いているのか分からず、すぐに応援が欲しいときなどタイムリーな対応ができません。
  10. そんなときに役立つのが一斉に情報を伝達できる「インカム」です。人を探して走り回ることが減り、スタッフの時間と体力を温存できるのがメリット。また、リアルタイムで情報共有ができるため、申し送りにかかる時間も削減することができます。

  11. OJTの仕組み作り
    OJTはOn the Job Trainingの略で、現場で業務を行いながら教えてもらう実地研修のこと。教えてもらう内容や手順がバラバラでは、なかなか人材は育っていかず、現場も手が取られて生産性が上がりません。教える内容や順序、評価の基準、教えるための技術など、人材育成の仕組みを作っておくことはとても重要です。
  12. 理念・行動指針の徹底
    イレギュラーなことが起こったとき、自分で判断できず業務が止まってしまったり、間違った判断をしてしまう・・・そのような職員ばかりでは生産性が大きく下がってしまいます。施設の理念、行動指針を明確にし、全スタッフに徹底しておくと、スタッフが判断に困る場面に遭遇したとき大きな助けとなります。

※介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 施設サービス 令和元年度改訂版(厚生労働省ホームページ)
>前編
>中編
>後編

小さなことから成功体験を重ねよう

にこやかな様子の介護スタッフ
ご紹介したなかのICTやインカムの導入は、効果が大きいですが費用もかかり、すぐに取り組むのは難しいと感じるかもしれません。でも、ストックルームの整理や使い勝手の向上等なら、比較的気軽に取り組めそうですね。

取り組み成功のポイントは、「ストックルームが使いやすくなった」「在庫が見やすくなって発注作業が効率化できた」など、小さなことからスタッフに成功体験をしてもらうこと。取り組みの効果を実感してもらうと、さらに周囲の協力も得られやすくなります。

生産性を上げていこうという全体の機運が高まれば、予算のかかる改革にも取り組みやすくなり、さらに効率的に仕事ができる環境が整っていくでしょう。ぜひ、気負わず一歩踏み出してみてくださいね。

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