入居者が仕事でイキイキ!仕事付き高齢者向け住宅とは

使えるハウツー

高齢者が仕事をしている様子
老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの高齢者向け住宅では、日々スタッフが工夫をこらして入居者向けのレクリエーションを考え提供しています。しかし人それぞれ異なる障がいの程度や興味の幅を考慮して、誰もが楽しめるレクを準備するのはとても大変。スタッフの大きな負担となっている場合もあります。

そんななか最近新たに注目を集めているのが「入居者に仕事を提供する」という試み。きっかけは、「どんなレクがしたいですか?」というアンケートに高齢者自身が「仕事がしたい」と答えたことだったといいます。

「仕事をして社会とつながり、生きがいを得たい」という高齢者の思いに応える「仕事付き高齢者向け住宅」。今回はこの新しい試みにスポットを当ててご紹介していきます。

仕事付き高齢者向け住宅とは

仕事付き高齢者向け住宅は、2007年から「社会福祉法人伸こう福祉会」と「東レ建設」が協力して始めた、要支援・要介護の施設入居者に仕事を提供してやりがいを感じてもらうという試みです。具体的には希望する入居者に野菜の栽培や軽作業を行ってもらい、できた野菜を施設内で消費したり、地元のスーパーや飲食店に販売。その収益を参加者に分配金として支払うというもので、2017・18年度には経済産業省が推進する「健康寿命延伸産業創出推進事業」のモデル事業としても採択されました。

最初は伸こう福祉会が運営する介護付き有料老人ホーム「クロスハート湘南台二番館」から、要支援~要介護3までの高齢者が参加してスタートしました。東レ建設の高床式砂栽培「トレファーム(R)」を採用し、腰を曲げなくても作物の世話ができます。ハウス内は快適に作業できる環境が保たれているため、障がいのある方も自分のできることに合わせてムリなく作業ができるようになっています。

さらに2018年度は対象施設を増やし、「カゴメ」もモデル事業に参入。野菜や健康に関するセミナーを開催してきたノウハウを使って、企業や小学生向けにセミナーを行う仕事も始まりました。高齢者は講師として施設内や自室を案内したり、小学生と一緒に収穫体験を行うなどします。

当初の報酬は数百円程度のお金や図書券などでしたが、いずれはまとまった額を受け取ってもらえるよう、事業を育てていこうとしています。

入居者が仕事をするメリット

農作物を育てる高齢者
仕事をするには、一緒に働く人とコミュニケーションをとることが必須。共通の目的を持って協力した経験があれば、ただの顔見知り以上の絆が生まれ、打ち解けて会話しやすくなります。実際に上の例でも、仕事を通じて知り合った入居者同士が自然に挨拶や世間話を交わすようになり、コミュニケーション量が増えたといいます。

また段取りを考えて手や体を動かすことは脳へのとてもよい刺激に。収穫したり納品したりするときには心地よい達成感も得られます。これらはリズム体操や制作物を作るといったレクリエーションと同様か、それ以上の効果をもたらすと考えられます。

このようにメリットはいろいろありますが、なかでも一番大きいのは「自分の価値が社会に認められたと感じられる」ことでしょう。人は誰でも「人の役に立ちたい」「認められ、感謝されたい」という思いを持っています。もちろんレクリエーションでも、チームの勝利に貢献したり得意なことで認められることはありますが、それは施設内という小さなコミュニティのなかでのこと。そうではなく、自分のがんばりが社会的に価値を認められた「お金」に換算されることは、働くことをあきらめざるを得なかった高齢者にとって大きな発見と喜びです。

手がけたものが目の前で売れていく、それは自分の価値がわかりやすく認められた瞬間にほかなりません。「自分にもできた」という自己肯定感を感じることは、介護サービスを受けながら施設で暮らす方々にとって、生きがいや居場所作りに大きく貢献すると考えられます。

支えるスタッフにとってのメリット

介護スタッフからすると、「日常動作に介助が必要な高齢者に、ほんとうに仕事ができるのか」と懐疑的に思われるかもしれません。しかし上記の例で採用された東レのトレファーム(R)では、手間のかかる肥料や水やり、温度管理などはシステムが自動で行います。専用の砂を使うことで病気や害虫も発生しにくくなっており、農業初心者でも軽作業で失敗なく野菜作りを楽しむことができるように考えられています。高床式なのでかがむ必要がなく、車いすの方が作業に参加できる点も高齢者に向いています。

あくまでもアクティビティではなく「仕事」という位置づけなので、スタッフのサポートはビニールハウスまでの送迎など最小限にとどめることができるのがメリット。また仕事を始めると「次はどんな野菜を育てようか」「ここに野菜を持って行ったら買ってもらえるかも」など、高齢者自身がどんどんアイデアを出してくれるように。「次は何のレクをしたら楽しんでもらえるか」と悩むことも減るので、その分スタッフの負担が軽くなります。

もちろん、高齢者がムリなく働ける環境を整えるにはコストがかかりますが、新しい試みによって働く人のモチベーションや企業価値が高まれば、よい企業PRになります。採用面でもよい影響があることを考えると、企業全体のメリットも大きなものになるでしょう。

通所介護で広がっている「有償ボランティア」

老人ホームなどの入居型施設だけでなく、デイサービスなどの通所介護にも「仕事をして生きがいを得てもらう」という考え方が広がりをみせています。

これは「施設外に出向いて有償でボランティアを行い、本人が謝礼を受け取る」というもので、サービス計画にあらかじめ社会参加活動などが盛り込まれていることや、活動中も職員による見守り、介助などの支援が行われていること、本人の満足や自信回復につながることなどいくつかの条件を満たせば認められます。

実際の活動例としては、料理ができる利用者様がカフェのキッチンで働いたり、保育施設に出向いて紙芝居の読み聞かせを行ったり、地域の花壇を整備するなどケースによってさまざま。充足感を得ることが大切なので、それぞれが好きなこと・得意なことを生かすことも多いようです。要介護になってもできることを生かして働くことは、生きがいを持ってイキイキと暮らすことに大いに貢献します。

働きたいという思いを大切にできる社会に

生き生きとした様子の高齢者
よいことばかりに思える高齢者の「仕事」ですが、もちろん課題もあります。たとえば、介護保険サービスの枠内で提供される仕事はリハビリとしての性質も持ち合わせるため、できることに制限があり時間的な制約やノルマ、重労働などが含まれる仕事はできません。そうした事情もあってなかなか受け入れてくれる企業が増えにくく、受け取れる報酬も気持ち程度になってしまうことが多いのです。

また施設側にとっても、有償ボランティアに取り組んだからといって施設の収入が増えるわけではないため、積極的に取り入れる施設はまだ多くはないのが実情です。

とはいえ報酬を得て行う仕事には、社会に参加している実感や満足感、自己肯定感を得られるという大きなメリットがあります。課題の克服には、障がいのある高齢者や認知症の方を特別視するのではなく、誰もがなりうるものとして社会全体で受け入れていくことが欠かせません。一人ひとりが意識を変えていくことで、この取組みが大きく広まっていってほしいですね。

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