
介護職員の賃金上昇や労働環境の改善を図ることを目的とした介護報酬の加算制度に「介護職員等処遇改善加算」があります。
前回行われた2024年6月の介護報酬改定では、これまで複雑に分かれていた3つの加算が一本化され、事務手続きの簡素化によってスムーズに加算を取得できるようになりました。
そうしたなか2026年6月には、次年度の介護報酬改定を待たずに「令和8年度 介護報酬臨時改定」が実施されることが決定しています。
今回は、現行の処遇改善加算の全体像を振り返りながら、令和8年の臨時改定が行われる背景や主な変更点について分かりやすく解説します。
※2026年4月時点の情報を基に作成しています。
介護職員等処遇改善加算の基本的な仕組み
現行の「介護職員等処遇改善加算」は、2024年6月に新たに創設された加算制度です。
従来の旧加算では、3つの加算制度に分かれていたため、「算定要件が分かりづらい」「加算の手続きが複雑になり、事務が大変」といった問題が見られていました。
このような問題を踏まえて、2024年度の介護報酬改定では「介護職員等処遇改善加算(以下、処遇改善加算)」に一本化され、加算取得の手続きが簡素化されました。
▼処遇改善加算への一本化について
| 旧加算(変更前) | 現行の加算(2024年6月から) |
| 介護職員処遇改善加算 介護職員等特定処遇改善加算 介護職員等ベースアップ等支援加算 | 介護職員等処遇改善加算 |
まずは、2024年6月からスタートした処遇改善加算の基本的な仕組みを見ていきます。
4つの加算区分(Ⅰ~Ⅳ)
一本化された処遇改善加算では、Ⅰ~Ⅳの4つの加算区分が設けられています。各加算の内容は、以下のとおりです。
▼加算区分(2024~2025年度までの内容)
| 区分 | 趣旨 |
| 加算Ⅰ | 技能・経験のある職員への処遇改善の重点化による人材の充実 |
| 加算Ⅱ | 事業所内の総合的な職場環境の改善による職員の定着促進 |
| 加算Ⅲ | 資格や勤続年数に応じた昇給の仕組みの整備 |
| 加算Ⅳ | 介護職員の基本的な待遇改善と職場環境の改善 |
これらの加算区分において、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%の基本給の引き上げ(ベースアップ)につなげるための加算率の引き上げが行われました。
3種類の加算要件
処遇改善加算の算定にあたっては、「キャリアパス要件Ⅰ~Ⅴ」「月額賃金改善要件Ⅰ・Ⅱ」「職場環境等要件」といった3種類の加算要件が設けられています。
▼加算要件(2024~2025年度までの内容)
| 要件の種類 | 概要 | |
| キャリアパス要件 | Ⅰ | 介護職員の職位・職責・職務内容などに応じた任用要件と賃金体系を整備する |
| Ⅱ | 介護職員の能力評価や資格取得のための計画を策定し、 研修の実施または機会を確保する | |
| Ⅲ | 経験や資格、一定基準に基づく昇給の仕組みを整備する | |
| Ⅳ | 経験・技能のある介護職員のうち1人以上について、賃金改善後の賃金額が 年額440万円以上 | |
| Ⅴ | サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士等を配置する | |
| 月額賃金改善要件 | Ⅰ | 加算Ⅳ相当の加算額の1/2以上を月給改善に充てる |
| Ⅱ | 旧ベースアップ等加算相当の加算額の2/3以上について、新たに月給の 引き上げを行う | |
| 職場環境等要件 | 6区分のうち「加算Ⅰ・Ⅱ」は各2つ以上、「加算Ⅲ・Ⅳ」は 各1つ以上取り組む | |
算定する加算区分によって要件の項目が変わる仕組みとなっています。
出典:厚生労働省『「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります』
令和8年度の介護報酬改定で処遇改善加算がさらに拡充
介護報酬改定は3年に1度のペースで行われますが、次年度となる令和9年度を待たずに令和8年度での臨時改定が行われることが決定しました。
高市内閣が閣議決定した経済対策『「強い経済」を実現する総合経済対策』において、「介護分野の職員に対して他職種と遜色のない処遇改善に向けた取り組みを行う」といった方針が示されたことが背景にあります。
令和8年度の臨時改定では、最大月1.9万円(6.3%)の賃上げを実現するために、処遇改善加算率の引き上げや上乗せ措置などが行われています。
令和8年度 介護報酬改定の変更点|4つのポイントをチェック
令和8年6月から施行される介護報酬改定では、現行の加算に対する上乗せや対象者の範囲拡大、訪問系サービスへの加算の新設などが行われます。
主な改定ポイントは、以下の4つです。
ポイント1.加算I~IVの加算率の引き上げ
今回の臨時改定では、処遇改善加算Ⅰ〜Ⅳのすべての区分で加算率が引き上げられます。2024年度からの改定率は2.03%プラス(処遇改善分1.95%プラス)となっています。
訪問介護を例とした加算率は、以下のとおりです。
▼加算率の引き上げ(訪問介護の例)
| 加算区分 | 2024年6月から(改定前) | 2026年6月から(改定後) |
| 加算Ⅰ | 24.5% | 27.0% |
| 加算Ⅱ | 22.4% | 24.9% |
| 加算Ⅲ | 18.2% | 20.7% |
| 加算Ⅳ | 14.5% | 17.0% |
出典:厚生労働省『「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります』/厚生労働省『介護職員の処遇改善』
ポイント2.生産性向上や協働化の取組に対する上乗せ加算区分の導入
現場の生産性向上や協働化に取り組む事業者は、月0.7万円(2.4%)の上乗せ加算を取得できる仕組みが新たに創設されています。
「令和8年度特例要件」のア~ウのいずれかを満たすことで、処遇改善加算の上位区分(加算Ⅰ・Ⅱ)の取得が可能になり、加算率を上乗せして算定できます。
▼令和8年度特例要件
| 要件 | 内容 |
| ア 訪問、通所サービス等 | ケアプランデータ連携システムに加入+実績報告 |
| イ 施設サービス等 | 生産性向上推進体制加算Ⅰ又はⅡの取得(※)+実績報告 |
| ウ 共通 | 社会福祉連携推進法人に所属していること |
厚生労働省『令和8年度介護報酬改定について』を基に作成
※加算の申請時点では、取得の誓約で算定可能。
出典:厚生労働省『令和8年度介護報酬改定について』
ポイント3.処遇改善加算の対象を「介護従事者」に拡大
これまで処遇改善加算の対象は「介護職員」のみでしたが、臨時改定後は「介護従事者」の幅広い職員に拡大されます。
介護職員だけでなく、介護従事者を対象に月1万円(3.3%)の賃上げを実現する措置が設けられました。このような加算対象の拡大により、介護に携わる多くの職員の賃金アップにつながることが期待されます。
出典:厚生労働省『令和8年度介護報酬改定について』
ポイント4.訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援等への加算の新設
令和8年度の臨時改定では、これまで処遇改善加算の対象外だった訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援等への加算が新設されました。
サービス区分ごとの加算率は、以下のとおりです。
▼サービス区分別の加算率
画像引用元:厚生労働省『令和8年度介護報酬改定について』
新設された訪問看護は1.8%、訪問リハは1.5%、居宅介護支援・介護予防支援は2.1%の加算率が設定されています。なお、表内の★マークについては、介護予防にも同様の措置が適用されることを意味しています。
出典:厚生労働省『令和8年度介護報酬改定について』
【令和8年6月以降】処遇改善加算改定後の取得要件
令和8年度の処遇改善加算および上乗せ加算を取得するための要件は、以下のとおりです。
▼令和8年度処遇改善加算の取得要件
画像引用元:厚生労働省『令和8年度介護報酬改定について』
表内の〇および◎については、「職場環境等要件」に関する取り組み(6区分・28項目)の数を表しています。〇は7項目以上、◎は13項目以上を実施することが必要です。
上位区分の加算Ⅰ・Ⅱを取得した事業者が、生産性向上や協働化に関する特例要件を満たす取り組みを実施した場合には、さらに加算率を上乗せして加算を取得できます。
また、新設された訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援等に関する加算においては、「加算Ⅳに準ずる要件を満たす」または「令和8年度特例要件を満たす」ことが必要です。
出典:厚生労働省『令和8年度介護報酬改定について』
▼訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援等の加算取得要件
画像引用元:厚生労働省『介護職員の処遇改善』
上記の「加算Ⅳに準ずる要件」は、年度中での対応の誓約で算定可能です。「職場環境の改善」の取り組みは、28項目中7項目以上の実施が求められます。
出典:厚生労働省『令和8年度介護報酬改定について』『介護職員の処遇改善』
より多くの加算を取得するための準備を始めよう
令和8年度の介護報酬改定では、処遇改善加算の加算率の引き上げや上乗せ区分の追加、対象者・サービス区分の拡大が行われています。
これらの加算を積極的に取得することで、職員の賃金アップや業務改善につながり、介護人材の定着化・採用促進にもよい影響がもたらされると期待されます。
介護事業所の管理者やチームリーダーとして活躍している方は、処遇改善加算の取得に向けて要件をクリアする取り組みを推進しましょう。












