「バイタルサイン」「バイタルチェック」・・・介護の現場で良く耳にする「バイタル」という言葉。体温や脈拍、血圧、呼吸などのバイタルサイン(生命のサイン)をチェックするバイタルチェックは、高齢者の異変を早期に発見して健康維持につなげていくための大切なプロセスです。
些細な変化が実は重大な病気の初期症状だったということもあるので、数値をさかのぼって確認できるよう介護記録にきちんと記入していくことも欠かせません。
高齢者の健康に深く関わるバイタルについての知識。理解を深めることは介護のプロとしての自信につながるので、気になる方はぜひチェックしてみてくださいね。
バイタルとは
「バイタル」とは、「バイタルサイン(vital sign)=生命のサイン」を略した言葉です。生命のサインとは「生命維持に必要不可欠なこと」を指し、介護現場においては「体温」「血圧」「脈拍」「呼吸」の4つを表します。救急医療の現場などでは、これに「意識レベル」を加えることもあります。
体温計や血圧計などの機器を使ってこれらの数値を測ることを、一般的に「バイタルチェック」と呼びます。
バイタルチェックはなぜ重要?
高齢者は一般的に免疫が低く、伝染病などの病気にかかりやすいもの。また介護施設の利用者様には持病のある方も多く、何らかのきっかけで急に悪化することも考えられます。
しかし高齢になると体調に異変があっても自覚症状がなかったり、自覚症状があっても周囲に上手く伝えられないケースも増えてきます。
そこで介護施設ではバイタルチェックを1日1回以上定期的に行うことで、発熱や血圧異常などの早期発見につなげています。体調悪化の兆候を見つけて初期のうちに対処することで、大事になるのを防ぐことができます。
バイタル測定のやり方と注意点
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体温測定
測定部位は脇の下が一般的。汗をかいている場合はよく拭いてから、肌にぴったりつけて測ります。体温計をわきに挟んだら、隙間ができないようわきをしめてもらいましょう。
感染症法では37.5度以上を発熱としていますが、平熱には個人差があるため一概に「○度以上なら発熱」「○度未満なら平熱」と決めつけることはできません。普段から把握しているその人の平熱と比較して、高いようであれば発熱と考えましょう。
参考までに、統計値※によると65歳以上の男性高齢者の平均体温は36.55℃とやや低め、女性高齢者の場合は36.72℃で男性に比べると若干高めとなっています。
※「老人腋窩温の統計値」より
【注意点】
体温は日中に高く夜間は低くなる傾向があるため、毎日同じ時間帯に体温を測ることが大切。直射日光や暖房の風が直に当たっていたり、厚着しているせいで体温が上がることもあります。また食事や運動、入浴でも高くなることがあるため、体温測定の際にはこれらの影響を受けないよう、測る時間や環境に注意してください。 -
脈拍測定
リラックスしてもらった状態で、手首の親指側にある動脈(橈骨動脈・とうこつどうみゃく)に、自分の人差し指・中指・薬指を並べて置き、1分間の脈拍の回数を数えます。30秒数えて2倍する方法もありますが、脈拍のリズムが不規則だと不正確になりがちなため、実際に1分かけて測るほうが推奨されます。
高齢者の脈拍の正常値は若年者と比較するとやや少なく、1分間に50~70回程度。この目安に対して多ければ頻脈といって発熱や貧血、心不全などの可能性があります。
逆に少ない場合は徐脈といい、病気が原因のほか薬が効きすぎている可能性も考えられます。またリズムが一定でなく一拍飛ぶなど不安定な場合は、心臓の拍動が正常でなくなっている不整脈の状態です。
【注意点】
脈は運動、食事、入浴、ストレスなどで早くなりやすいため、これらの影響がない状態で測るようにしましょう。 -
血圧測定
介護職が血圧を測定する場合は、自動血圧測定器を使用します(水銀血圧計での測定は医療行為になるため、介護職は行うことができません)。
血圧は座った状態で、リラックスして測ることが大切。尿意や便意があると正確な血圧が測れないため、必要があれば血圧測定の前にトイレを済ませておきましょう。測る際は素肌か薄手の服の上から。セーターなどは腕まくりではなく、脱いで測定します。
腕を機械に通して測るアームイン型の場合は、手のひらを上に向けて手を浮かさないこと、また前のめりの姿勢にならないことを注意してください。
上腕式血圧計の場合は、エアチューブが手のひら側に来るようにして、隙間ができないようにぴったりとカフを巻き付けます。カフを巻いた部分が心臓と同じくらいの高さになるようにして測ります。
最大110~130、最低60~90を目安に、数値が高ければ温度差や水分不足などの影響で脳卒中や心臓病のリスクが高まるため適切な対応が必要となります。
【注意点】
デイサービスなどで移動をともなう場合、到着後すぐに測るのではなく、15~20分ほど安静にしてから測ります。また測る前に深呼吸をするなど、気持ちを落ち着かせてもらうのもおすすめ。測定中に会話をすると血圧が上がってしまうので、測定中は話しかけないようにしましょう。 -
呼吸の測定
安静にしているときに、胸やみぞおちの上下運動の数を 1分間数えて測定します。 1分間に15~20回を目安に、規則的なリズムを保っている状態が正常です。布団の上から観察したり、胸に手を置いて上下の動きを感じ取るなどの方法があります。
回数とあわせて、呼吸が苦しそう、呼吸が早い/浅い、リズムに乱れ、ゼーゼー、ヒューヒューといった音や咳や痰がないかなども観察してください。
【注意点】
呼吸は自分の意思でコントロールできるので、測定するときは本人に気づかれないようにさりげなく行いましょう。
バイタルで異常値が出たらどうする?
バイタルサインを測定して異常値が出た場合は、まず落ち着いて測定方法が間違っていないかを確認しましょう。正しく測定して異常値が出た場合は、看護師へ報告し、対応方法の指示を受けるようにします。
高熱や呼吸困難など、症状が重い場合は緊急性が高いので、応援スタッフを呼びすぐに看護師に報告を。症状が軽い場合も、衣服を緩めて安静にする、水分摂取量が足りているかチェックするなどの対応をとりつつ、早いタイミングで医療職へ報告しましょう。
バイタルサインの測定は医療行為ではない(水銀血圧計を使った血圧測定は除く)ので介護職が行うことができますが、測定結果から診断を下す行為は医療行為にあたるため、介護職は行うことができません。
たいしたことはないと自分で判断するのではなく、必ず報告をして医療職はじめ周囲のスタッフと情報共有し、指示に従い対応するようにしましょう。
介護記録のバイタルの書き方
バイタルサインの数値を測定したら、すぐに正確に記録するようにしましょう。利用者様ごとに、バイタルサインをチェックした日時と測定した具体的な数字を介護記録に書き込みます。後から数値を改ざんできないよう消せるタイプのペンは使わず、間違えたら二重線で消して訂正します。
最近は紙ではなくデジタル端末に入力するタイプも増えています。どちらの場合もバタバタしていると記入もれや間違いが起こりやすいので、測ったらすぐに記入or入力を。記録を忘れてしまうと後で測り直さねばならず、測定条件が普段と変わってしまいます。
その人の平常値を知るためにはいつも同じ条件で測定することが大切。これが正確に把握できないと、高齢者の異変に気付くのが遅れて重大な結果をもたらすこともあるので、十分注意しましょう。
介護記録に連動するICTバイタル測定機器を使えば、測った数値が自動で介護記録に入力されるため、正確性も高く非常に便利です。
自分の目と耳で感じることも大切に
ここまでバイタルサインの計測・記録について見てきましたが、実はそれと同じくらい介護職が大切にしたいことがあります。それは本人をよく観察し、本人の話を聞くこと。
たとえばバイタルの数値は正常の範囲内でも、毎日身近に接している介護職が「今日は顔色が悪いな」「元気がなさそう」と感じたら、なにかしらの不調のサインである可能性が。また「最近めまいがあるのよ」「よく眠れなくて」といった本人の話に、大きな病気の兆候が隠れていることもあります。
バイタルを測定する際は、つい時間に追われてせかせかしてしまいがちですが、計測機器だけ見て終えるのではなく、本人をよく見て小さな変化や訴えを見逃さないことが大切。介護のプロとして、高齢者の異変に気づける視点を養っていきましょう。