介護の仕事を辞めたくなる理由で一番多いのが、人間関係。「ある日突然、仲間外れされるようになった」「先輩に質問したら、そんなことも分からないのと怒鳴られた」など。体力面での疲労というよりは、精神的ストレスや悩みをかかえている人が多いようです。
そんな状況から「自分はこの仕事に向いていないのかも」と自信がなくなったり、「もう辞めたい」と泣きたくなる夜に、ほんの少し気持ちがラクになるような言葉をお届けします。
職場の人間関係に疲れたとき
置かれたところで咲きなさい
「置かれたところで咲きなさい。咲くということは、仕方がないと諦めることではありません。それは自分が笑顔で幸せに生き、周囲の人々も幸せにすることによって、神が、あなたをここにお植えになったのは間違いでなかったと、証明することなのです」。
–幻冬舎文庫「置かれた場所で咲きなさい」渡辺和子
岡山にあるノートルダム清心学園の理事長であった、渡辺和子さん。36歳で学長就任した当時は、慣れない土地での生活や学長という立場の重責から自信をなくし、修道院を出ようかとまで思いつめていたときのことでした。一人の宣教師から贈られた詩に、この言葉があったのだそうです。
渡辺さんは気づきます。「置かれた場に不平不満をもち、他人の出方で幸せになったり不幸せになったりしては、私は環境の奴隷でしかない。人間と生まれたからには、どんなところに置かれても、そこで環境の主人公となり自分の花を咲かせよう」。
介護の現場は日々忙しく、年齢も経験もちがう職員同士が集まるなかで、コミュニケーションの難しさを感じている方も多いはず。先輩のきびしい言葉や、職員同士のもめ事などに、気持ちが滅入ってしまう日もあるでしょう。
でもそんな時、ふと気づくと、他人の言動にふりまわされている自分がいたりします。自分自身が改善すべきことは真摯にうけとめるとしても、相手の気分次第で、自分の感情まで揺さぶられるのはつらいことです。
それよりも「自分がここに植えられた意味」を前向きに考えてみる。そして、ここでまだやるべきことがあると思えるなら、自分が正しいと思うことを行い、謙虚な気持ちでしっかり働く。そんな姿は、いつの間にか周囲の人たちにも良い影響を与えるのではないでしょうか。
先入観なしに見る:禅語「悟無好悪(さとればこうおなし)
「子どもの頃は、まったく曇りのない目で物事を見ていました。正しいと思ったことは正しいと言い、美しいと感じたものは美しいと言う。そこには何の策略もおもねる気持ちもありません。色眼鏡をかけていない純真無垢な心。それこそが、人間本来の姿であると禅の世界ではとらえているのです」。
「人でもものでも先入観を持たずに、あるがままを認めることができれば、好き嫌いなどなくなってしまう」。
–朝日文庫「禅の言葉に学ぶ、ていねいな暮らしと美しい人生」枡野俊明
つき合いにくいと思っていたけれど、じっくり話してみると意外にやさしい人だった、そんな経験ありませんか。私たちはつい周囲の評判や先入観にとらわれて、他人を評価してしまいがち。もう一度、子どもの頃の自分にもどって、ちょっと苦手な相手のことを見てみると、意外な発見があるかもしれません。
むなしい気分になったとき
一生の終わりに残るものは、我々が集めたものでなく、我々が与えたものだ
「肉体的成長は終わっていても、人間的成長はいつまでも可能であり、すべきことなのです。その際の成長とは、伸びてゆくよりも熟してゆくこと、成熟を意味するのだといってもよいかもしれません。
不要な枝を切り落とし、身軽になること、意地や執着を捨ててすなおになること、他人の言葉に耳を傾けて謙虚になることなどが成熟の大切な特長でしょう」。
–幻冬舎文庫「置かれた場所で咲きなさい」渡辺和子
人は生きている間じゅう、人間関係のさまざまなことで悩んだり、喜んだり、勇気をもらったりするものなのでしょう。
私はこんなに気を使っているのに。あの時だって手伝ってあげたのに。あの人がこう言ったから。そう思いたくなることは多々ありますが、とりあえず全部忘れて、身軽になってみましょう。相手が何もしてくれないと思うより、相手のために何か助けてあげられることはないか。たとえば、笑顔であいさつするだけでも、相手の心に爽やかな風を吹かせているかもしれません。
そして、あなたの日々の頑張りに、元気や希望をもらっている人たちがいるのだと、どうか自分をほめてあげてください。
いつでもどこでも心静かにいる:「動中静(どうちゅうのじょう)」
「静かな心は静かなところでしか得られない、と考えるのは一般的な考えであるが、禅の世界では、日常の生活の真っただ中にあっても「静」を保つことこそが、真の境地をつかんだ人のなすことである、としている。
相対的な評価や、周囲の声、誘惑などに惑わされることなく、何物にもとらわれない静かな心を保つことの大切さを合意した言葉である」。
–朝日文庫「禅の言葉に学ぶ、ていねいな暮らしと美しい人生」枡野俊明
人間関係のストレスは、心だけでなく体にも悪影響を与えるもの。怒りの感情は呼吸を浅くさせて、自律神経を乱したり睡眠不足になったりとよいことは何もありません。
それならば、まずは考えることを止めてみる。「まあ、どうでもいいか」と忘れてみる。自分がいくら悩んでも仕方がないことは、もう考えない。目を閉じて、深く深呼吸をして、心の中に静かで青い湖がひろがっている景色を思い浮かべてみてください。少しは気持ちがラクになってくるはずです。
介護の仕事も人生も、日々勉強
渡辺さんの本「置かれたところで咲きなさい」には、こんな言葉もつづられています。
「どうしても咲けない時もあります。雨風が強い時、日照り続きで咲けない日、そんな時には無理に咲かなくてもいい。その代わりに、根を下へ下へと降ろして、根を張るのです。次に咲く花が、より大きく、美しいものとなるために」。
長い人生のなか、仕事でもプライベートでも上手くいかない時は誰にでもあります。こんなに一生懸命やっているのになぜだろう?私が何か悪いことしたかしら?そう思ってしまうときもあります。
けれども、そんなときこそ、しっかりと自分の力を養って根を張りましょう。夜が明けない日はありません。あなたらしい素敵な花が咲かせられますように。