高齢者のペースに合わせてていねいな介護をしている人は、いつも自分より相手を優先するため、ともすれば自分の気持ちをすり減らしてしまいがち。それでも自分ががんばらなければと、心を奮い立たせて努力しています。
がんばりをきちんとみていてくれる人がいれば大きな励みになりますが、逆に誤った思い込みから心ない言葉をかけられると、深く傷つき落ち込んでしまいます。そんな状態が続けば、心を病んでしまうことも。
「大変だろうなとは思うけど、具体的に何が大変なのかはよく知らない」「介護をがんばっている人の心を軽くしてあげたい」という人は、介護者と話す前にぜひ、このコラムを読んでみてくださいね。あなたにできることは思った以上にたくさんありますよ。
仕事で介護をしている人の気持ち
はじめに、もし介護の仕事について「誰でもできる」などと下に見ているとしたら、その誤った思い込みをすっかり捨ててください。介護職は、体力さえあればできるというものではなく、専門的な知識と経験を要する難しい仕事です。
ベテラン介護職なら、移動介助などの介助技術や麻痺のある人の姿勢の整え方などに関して看護師よりも高い技術を持っていたり、また認知症などの病気についても、現場的な知識なら医師より詳しいことも珍しくありません。
介護職員は高齢者の様子をさりげなく観察し、事故や病気の危険性を予見して未然に防ぐといった、難度の高い仕事を日常的にこなしています。皆仕事に対するやりがいや誇りといったポジティブな気持ちを持って、日々仕事に取り組んでいます。
と同時に、もちろん不満やストレスといったネガティブな気持ちも存在しており、そのバランスは人によって千差万別です。さらに体調やその日の出来事などでも絶えず変化します。
それを「大変なんでしょ」「給料安いんでしょう」といったステレオタイプを押しつけられると「良いところもあるのに」とイヤな気持ちになったり、「どんな仕事でも同じだよ」と言われれば「介護の仕事を知らないのになぜ分かるの?」と反感を持つことも。逆に「大変な仕事をして偉いねえ」「すごい、私にはできないわ」と褒めちぎられても、違和感を感じてモヤモヤ。
ではどうすべきかですが、まずはその人自身の話に耳をじっくり耳を傾けることから始めてみてください。できるかぎり聞き役に徹し、自分の意見は求められれば控えめに話す程度に。
「こんなところが大変なんだよ」と言われれば「そうなんだ、それは辛いね」と心を寄せ、「でもね、こんな楽しいこともあるんだよ」と言われれば「うんうん、よかったね」と一緒に喜ぶ。何のアドバイスもしなくても、帰り際に「ありがとう、心が軽くなった。また明日からがんばれる」などと言われて驚くかもしれません。
親の介護など家庭で介護している人の気持ち
親の介護など家庭で介護をしている人は、どうしても孤独を抱えがちです。仕事で介護をしている人は、上司に相談したり同僚と悩みを分かち合うことができますが、家族の介護の場合は相談できる相手がいないか、いても少ないのです。
また仕事の場合は給料という報酬がありますが、家庭の場合は無償です。さらに仕事なら休日がありますが、同居している場合などは休みがないということも忘れてはいけません。こうした理由から、仕事で介護をしている人よりも、一段上のハードな環境に身を置いていると思ってください。
それでも「大好きな親と少しでも一緒にいたい」「恩返しがしたい」といったポジティブな気持ちもあることから、ここでもネガティブな決めつけは禁物。その人だけのストーリーがあるので、話を聞くときはじっくり丁寧に、聞き役に徹していきましょう。
ただしどの介護者もベースには「孤独である」ということと「認めてほしい」という気持ち、そして「ゆっくり休みたい」という気持ちを抱えています。
「私でよかったらいつでも話を聞くよ」「よくがんばっているよね」「すこしでもリフレッシュしてほしいな」といった気持ちを積極的に表してみてください。きっとこちらの応援する気持ちが伝わり、喜んでもらえるのではないでしょうか。
介護をしている人に言ってはいけない言葉
「まかせるよ。あなたが一番分かっているんだから」
これを言われると、介護している人は突き放された気持ちになり、孤独を深めてしまいます。心が追い詰められ、余裕を失ってしまうので、悪気はなくても言わないでくださいね。
「AとBで迷っているんだけど・・・」等と相談をされたときはぜひこんなふうに言ってください、「その話もっと詳しく聞かせて」。
ここで介護者が欲しているのは、「話を聞いてもらうこと」です。スマホを触りながらやテレビを見ながら話を聞くのではなく、作業はやめて目を見てじっくり話を聞いてください。
このとき、少しばかり話を聞いて「それならAでしょう」「Bにすべき」と早急に結論づけないことも大切。介護者が欲しているのは結論ではないので、話の途中で決めつけて打ち切ってしまうと、介護者の気持ちは満たされず、大きなストレスだけが残ってしまいます。
「もっとこうした方が良いんじゃないの?」
自分は遠距離で普段は介護できないけれど、時々は担っている、そんな人が言ってしまいがちな言葉です。しかしこの言葉は、裏を返せば「あなたの今のやり方では不満」という意味にもとれてしまうので、とても言い方が難しいのです。
こういった提案をスムーズに受け取ってもらうためには、まず前提に人間として信頼してもらうことが必要です。普段から「いつもよくがんばってくれて本当にありがとう」「私が遠いから頼ってしまって、負担をかけているね、ごめんなさい」「本当に助かっているよ」といった言葉を、心から伝えていきましょう。
そのうえで「こういう方法があるみたいだけれど、もう知っていた?」「こんな情報を聞いたけれど、何かの役に立つかな?」といった具合に、やさしい言い方で伝えてみてください。
「そんなこと言わない!」「だいじょうぶ」「私もそういうことがあった」
相手が弱音を吐いているとき、ついつい励ますつもりでかけがちな言葉です。でも相手の話を否定してしまうと、孤独につながってしまいます。まずはつらい気持ちを受け止め、寄り添うことを心がけましょう。
「だいじょうぶ」という言葉も、根拠がなければポジティブの押し売りになってしまうことも。その人のことを誠心誠意思いやったうえで出る「だいじょうぶ」なら良いのですが、そうでなければ軽々しく言わないほうがよさそうです
あとは「私も仕事でそんなことがあったよ」と相手の話を乗っ取って、延々自分の話をしてしまうことにも注意を。大切なのは、介護者の「話を聞いて欲しい」という気持ちを満たすことなので、自分の話がメインになってしまわないように気を付けてくださいね。
介護者に心からの敬意を
介護は生身の人の感情に直に接するものなので、周囲が思う以上に気を使うことが多く、心をすり減らしてしまいがち。肉体的に大変なだけでなく専門的なスキルも必要なのに、社会的な評価はあまり高くないということも、介護をする人の気持ちを疲弊させがちです。
介護をしたことがないと、勝手な思い込みから心ない言動につながってしまい、介護者の心を傷つけてしまうことがあります。ぜひ介護という大仕事に取り組んでいる相手に敬意を払いつつ、気持ちに寄り添ってみてください。