自立支援介護をわかりやすく解説。自治体の取り組み事例や課題も紹介

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健康でいきいきしているシニア夫婦
団塊の世代が75歳以上になり、介護や医療費など、社会保障費の急増が懸念されている2025年問題に向けて、自立支援介護の取り組みが自治体でも盛んになってきています。

本記事では、自立支援介護について理解を深めたいと考えている方に向けて、自立支援介護の基本ケアやメリットをわかりやすく解説します。

現在、自立支援介護に取り組んでいる自治体の事例や、QOLの向上を目指しながら自立支援介護を進めていくうえでの課題についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

介護における自立支援とは

タオル体操を行うシニア達

自立支援介護とは、加齢や病気により介護が必要となった高齢者が、その人らしく自立した生活ができるように支援するケアやサポートのことです。

自立支援介護に必要な基本ケアは、以下の4つです。

  • 水分ケア
  • 食事ケア
  • 運動ケア
  • 排便ケア

4つの基本ケアについて、次の章で詳しく解説します。

参考:日本自立支援介護・パワーリハ学会「自立支援介護とは」

介護自立支援 4つの基本ケア

水を飲む女性シニア
自立支援介護では、4つの基本ケア(水分ケア・食事ケア・運動ケア・排便ケア)を、高齢者の状態に合わせておこなっていきます。
これらのケアは、健康状態や生活の質を向上させるだけでなく、転倒や認知症などの予防にも効果的です。

以下、基本ケアについて一つずつ詳しく見ていきましょう。

参考:厚生労働省「認知症予防・支援マニュアル(改訂版)」p.13~14

水分ケア

水分ケアとは、高齢者の体内水分量を適切に保つためにおこなうケアのことです。

高齢者はのどの渇きを感じにくいため、自分から積極的に水分を摂ろうとしないことがあります。また、病気や薬などの影響で、水分(尿)の排出量が増えて、脱水症状になる場合もあるでしょう。

体内の水分が不足することにより、熱中症や脳梗塞のリスクが高まるため、意識して水分を摂ることが大切です。

厚生労働省の「『健康のため水を飲もう』推進運動」では、1日の水分摂取量として2.5Lの水を飲むことを勧められており、自立支援介護でも、1日あたり1,500mlの水分摂取が必要とされています。

水分摂取は、食事の前後や運動の前後、就寝前など、こまめにおこなうことが大切です。

高齢者の好きな食事や飲み物、ゼリーなどを用意する、トイレの不安から水分補給を控えたりしないようトイレが近い部屋にするなど、配慮していきましょう。

参考:厚生労働省「『健康のため水を飲もう』推進運動」

参考:厚生労働省「介護予防マニュアル改訂版」p.72

食事ケア

食事ケアとは、高齢者が身体的・精神的な健康を保つために必要な栄養素を、バランスよく摂取できるようにするケアのことです。

高齢者は、食欲や咀嚼・嚥下能力の低下、歯や口腔の病気、薬の副作用などで、食事量が減ったり、かたよったりすることが多くなります。
栄養不足や低栄養になると、免疫力や筋力が低下するなど、健康障害のリスクも考えられるため注意が必要です。

食事ケアに必要な栄養量は、体格や活動量によって異なります。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」によると、65歳~74歳の高齢者では、1,550~2,750kcal/日。75歳以上の高齢者であれば、1,400~2,100kcal/日が目安です。

表4 高齢者(65~74歳)の推定エネルギー必要量(再掲)

男性 女性
身体活動レベル
エネルギー(kcal/日) 2,050 2,400 2,750 1,550 1,850 2,100

表6 高齢者(75歳以上)の推定エネルギー必要量(再掲)1

男性 女性
身体活動レベル
エネルギー(kcal/日) 1,800 2,100 1,400 1,650

レベルは自立している者、レベルは自宅にいてほとんど外出しない者に相当する。レベルは高齢者施設で自立に近い状態で過ごしている者にも適用できる値である。

引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」p.421~422

食事ケアをおこなう際は、高齢者の食事の好みや嗜好を知り、適切な量や味付け、形状にして用意します。食事の時間や場所、雰囲気などを工夫するのもよいでしょう。

食事のときは、高齢者の咀嚼・嚥下能力・口腔状態をチェックし、必要に応じて食事の介助や口腔ケアをおこなうことも重要です。

参考:厚生労働省老健局「令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.10)(令和3年6月9日)」p.5

運動ケア

運動ケアとは、高齢者の筋力や関節の可動域、バランス感覚などを維持・向上させるためにおこなうケアのことです。

運動不足や加齢によって筋肉量が減ると、骨粗しょう症や転倒のリスクが高まります。適度な運動をおこない身体機能を保つことで、日常生活動作ができ、自立度を高めることが可能です。

運動ケアに必要な運動量は体力や病状によって異なるため、高齢者の運動能力に応じて、適切な強度や時間、頻度などを設定していきます。

運動ケアの際には、高齢者の体温や血圧、心拍数などをチェックし、必要に応じて水分補給や休憩を行うことも重要です。

参考:厚生労働省 健康日本21「身体活動・運動」

参考:e-ヘルスネット「標準的な運動プログラム」

排便ケア

排便ケアとは、高齢者の便秘や失禁などの排泄トラブルを予防・改善するためにおこなうケアのことです。排泄のコントロールを支援することで、生活の質や自尊感情を高められます。

高齢者は、腸の動きが弱くなったり、薬の影響やストレスなどで排泄のリズムが乱れることも。排泄の習慣や状態を把握し、適切なタイミングや方法で排泄の誘導や介助をおこなうことが大切です。
必要に応じて、食事や水分の摂取、運動などの生活習慣の改善をおこなうこともあります。

排便ケアの際には、高齢者のプライバシーや尊厳を守り、快適な排泄環境を整えることも重要です。

参考:e-ヘルスネット「便秘と食習慣」

参考:厚生労働省老健局「令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.10)(令和3年6月9日)」p.6

自立支援介護のメリット3

バランスボールに乗るシニア女性
自立支援介護のメリットとして、次の3つがあげられます。

  • QOLが向上する
  • 介護負担が減る
  • 介護度の改善につながる

一つずつ見ていきましょう。

QOLが向上する

QOLとは、クオリティ・オブ・ライフの略称です。生きがいを感じながら生活しているか、自分らしく幸せな生活が送れているか、など「生活の質」を評価する概念です。

自立支援介護では、高齢者の自主性や尊厳を尊重し、本人の意思や希望を把握してコミュニケーションをとりながら、必要とされるサポートをおこないます。
これにより、高齢者は、自分の力で日常生活動作をスムーズにおこなえるようになり、積極的な活動につながります。

参考:厚労省「QOL評価の具体的方法等について」

介護負担が減る

自立支援介護をおこなうことにより、高齢者は介護者に頼らずに生活できるようになっていきます。
家族にとって、介護にかかる時間や費用を減らせることができ、仕事や趣味、休息などの時間が取れるようになる点もメリットのひとつです。
負担が減ることで、家族の生活や心にゆとりが生まれ、高齢者との関係が良好になる事例も。

また、介護には公的介護保険が使えますが、1~3割程度の自己負担が必要です。高齢者ができるだけ自分の力で生活できるようになることで、費用の面でも負担が減ります。

介護度の改善につながる

介護度は、高齢者の生活動作の自立度によって7段階で表されます。

自立支援介護で、高齢者が自分の力で生活できるよう必要なサポートのみおこなうことで、高齢者は身体機能を使う機会が増えて、体力や機能を維持・向上させることができることもメリットです。

自立支援介護をおこなうことで、高齢者の身体機能を維持・向上させ、介護度の悪化や事故の予防、安全な自立生活につながります。

参考:厚労省「要介護認定」

自治体取り組み事例

地域の実情に応じた自立支援の取り組みが、全国でおこなわれています。
今回は、三重県桑名市・埼玉県和光市・奈良県生駒市の事例をご紹介します。

その他の事例は、厚生労働省「地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組事例」でも紹介されていますので、興味がある方はご覧ください。

参考:厚生労働省「地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組事例」

三重県桑名市の事例

三重県桑名市の事例

引用:桑名市「栄養いきいき訪問」

桑名市がおこなっている事業では、要支援1・2の軽い介護が必要な人や、健康チェックで問題があった人を対象に、運動・口腔・栄養・認知など一人ひとりにあった専門的なサービスを実施。サービスを受けるには、市役所で認定を受ける必要があります。

訪問介護サービスでは、掃除・洗濯などの家事手伝いや、運動・食事などの指導が受けられ、通所介護サービスでは、施設に行って運動やレクリエーションなどを楽しめます。

参考:桑名市 介護予防・日常生活支援総合事業

参考:NHK福祉情報サイト ハートネット「高齢者の「自立支援」はどうあるべきか?」

埼玉県和光市の事例

埼玉県和光市の事例写真

画像引用:和光市 介護予防拠点

和光市の介護予防プログラムは、介護予防担当者が高齢者の状態や生活環境を調査し、介護予防の必要性や目標を設定。高齢者に適したサービスを提案し、高齢者の希望に沿ってサービスを利用できます。

サービスの種類は、通所型や訪問型サービスA型事業、和光市介護予防拠点など。
通所型・訪問型サービスA型事業は、要支援認定のある方に対して、機能向上・重症化予防の運動や再学習などのプログラムを提供します。

和光市介護予防拠点は、住民が創る集いの場として、さまざまな活動やイベントを開催。

和光市の介護予防プログラムは、「和光方式」と呼ばれており、厚生労働省から先進モデルとして推奨されています。

http://www.city.wako.lg.jp/home/fukushi/kaigo/_18051.html

奈良県生駒市の事例

奈良県生駒市の事例

画像引用:生駒市 介護予防事業

生駒市の介護予防プログラムは、介護予防担当者が高齢者の方の状態や目標を把握して、サービスを提案します。

サービスは、施設で受けるものや自宅で受けるものなどがあり、高齢者の方のニーズに応じて選ぶことが可能。

サービスには、通いや訪問、宿泊などの形態があり、看護や介護などの内容があります。また、認知症対応型や地域密着型など、特徴的なサービスもあります。

https://www.city.ikoma.lg.jp/0000000956.html

今後の課題

レクレーションを楽しむシニア達
自立支援介護をおこなっていくうえでの課題として、以下の3つが考えられます。

  • 無理なリハビリや栄養摂取などにつながる可能性
  • 利用者の選別につながる可能性
  • 地域の受け皿が足りなくなる可能性

一つずつ見ていきましょう。

無理なリハビリや栄養摂取などにつながる可能性

自立支援介護では、高齢者の能力に応じて、自分でできるようサポートをおこないます。しかし、過度に自立を求めた場合、無理なリハビリや栄養摂取になり、高齢者の負担やストレスにつながることもあります。

一人ひとりに合わせた、適切な介護の範囲と量を見極めることが重要です。

高齢者のニーズや状況を見極めて柔軟に対応できるよう、介護者の知識やスキルも求められます。

参考:NHK福祉情報サイト ハートネット「高齢者の「自立支援」はどうあるべきか?」

利用者の選別につながる可能性

自立支援介護は、介護の必要度が比較的低い「要支援」の高齢者を対象としていますが、介護の必要度が高い「要介護」の高齢者や、経済的に困難な高齢者に対しては、サービスが十分に提供されないという問題が指摘されています。

例えば、自立支援介護のサービスは、介護保険の給付とは別に、高齢者や家族が負担する自己負担が必要であることから、サービスが受けられない場合も。

また、地域によって提供されるサービス内容や質が異なるため、地域間の格差が生じる可能性もあります。

以上の要因から、高齢者の選別につながる恐れがあります。

参考:読売新聞オンライン「コロナ直撃 介護保険20年の課題」

地域の受け皿が足りなくなる可能性

自立支援介護は、地域の関係者や団体との連携が欠かせません。

自治体や専門職だけでなく、地域のボランティアや福祉施設、商店街や学校など、高齢者と関わるさまざまな人や組織と連携し、高齢者の生活を支えるネットワークを作ることが必要です。

高齢者に対しても、地域の活動や交流の機会を紹介し、高齢者の社会参加や人間関係を促進することが必要です。

しかし、以下のような理由から、地域の受け皿が足りなくなる可能性が考えられます。

  • 地域支援をおこなう人材や組織が不足しており、サービスの質や量に影響している
  • 自治体によって自立支援介護の取り組みや予算配分に差があり、利用者のニーズに応えられない場合がある
  • 必要な情報提供や相談支援が十分ではない場合がある

参考:NHK福祉情報サイト ハートネット「高齢者の「自立支援」はどうあるべきか?」

高齢者のQOLが向上する自立支援介護を

2025年問題に向けて注目される自立支援介護について、基本ケアやメリット、自治体の取り組み事例などを紹介しました。

今後を見据えて考えると、介護人材の不足はすぐに解消できるものではありません。このままでは介護を受けられない人も増えてくると考えられます。

高齢者のQOLが向上するようなサポートを進めるために、より具体的な自立支援介護の取り組みを、自治体はじめ私たちも考えていく必要があるのではないでしょうか。

 

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