認知症新薬のいま。アルツハイマー病の進行を遅らせる薬が相次ぎ承認

介護の仕事

道に迷った認知症のシニア

世界中で5,500万人を越えるといわれる認知症患者。多くの人が苦しんでいるにも関わらず、有効な治療法はいまだ確立されていません。そのため認知症になってしまうと、症状を一時的に和らげる対処療法で対応するしかない状況が続いています。

そんななか、2023年7月アメリカで新薬が承認されたというニュースが届きました。いったいどのような薬なのでしょうか。またその薬が一般に出回り、私達が恩恵にあずかる日はいつ頃になるのでしょうか。認知症新薬の現状について詳しくお伝えします。

公益社団法人日本WHO協会ホームページより

認知症治療薬、開発の歴史

アルツハイマー病について研究する科学者

認知症のなかでも半分以上を占めるアルツハイマー病。その原因は実はまだはっきりとは分かっていません。原因のひとつとして挙げられているのは、老化にともないアミロイドβと呼ばれる異常なたんぱく質が脳に溜まっていくことです。

1990年代のはじめイギリスのジョン・ハーディー教授が、アミロイドβの元になるタンパク質を作る遺伝子に変異があるとアルツハイマー病になりやすいことを発見。そこでアミロイドβが原因に関係しているという仮説が立てられ、アミロイドβを除去する薬の開発が目指されるようになりました。

1999年にアメリカのシェンク博士によって、体内の免疫細胞にアミロイドβを攻撃させ、免疫の力でアミロイドβを排除する「ワクチン療法」が考え出されましたが、副作用が大きくあえなく失敗。その後に人工的に作った抗体を投与する「抗体医薬」という技術が発展してきました。

そして2020年代に入ると、とうとうアミロイドβを減らす働きが認められるアルツハイマー治療薬が登場することに。長い戦いにようやく光明が差してきている状況です。

※参考:「アルツハイマー病との戦い120年史」サイカルjornal by NHK

2023年7月、レカネマブが承認

アルツハイマー病に効果のある新型の錠剤イメージ

2023年7月上旬、「レカネマブ」というアルツハイマー病の新薬がアメリカで承認を受けました。上で説明した抗体医薬の技術でアミロイドβのかたまりを減らし、アルツハイマー病の進行を遅らせる薬です。

最終段階の臨床試験では、この薬を投与された患者は、偽の薬(プラセボ)を投与された患者と比べて、1年後の認知機能の低下がおよそ27%抑えられ、病状の進行を緩やかにする効果が確認されたということです。

レカネマブは日本の製薬会社「エーザイ」と、アメリカの製薬会社「バイオジュン」が協同で開発を進めてきました。現在日本でも承認申請中で、2023年秋頃には結論が出るとみられています。

認知症を患う人にとっては期待が高まる朗報ですが、気になるのは費用面。レカネマブのアメリカでの販売価格は、患者1人当たり年26,500ドル(約380万円)。日本では年間百万円単位になる見通しで、現在のところかなり高額な薬となっています。

また脳の出血や脳のむくみといった副作用も確認されているため、投与に際しては脳のMRIを定期的に撮影するなどして、注意深く使用していく必要もあります。

※参考:讀賣新聞オンライン2023年7月7日記事「エーザイのアルツハイマー新薬「レカネマブ」、日本では秋までに審査結果…米で正式承認」

ドナネマブも承認を申請

アルツハイマー病に効果のある新薬のイメージ

また「ドナネマブ」という新薬も2023年6月にアメリカで承認申請を完了しました。こちらの新薬もレカネマブと同様に抗体医薬の技術を使ったものになります。

最終段階の臨床試験では、投与を始めてから1年半後の時点で、プラセボ投与群と比べて認知機能の低下が約35%抑えられたということです。副作用としては、脳の血管周辺に液体が溜まることによる頭痛やめまい、視覚障害などが報告されています。

アメリカでは2023年内に承認の可否が決定される見込みとなっており、日本でも年内に申請が行われる予定。レカネマブに続いてドナネマブも認可されれば、価格競争が起きてコストが下がる可能性もあります。ぜひ期待して待ちたいところです。

参考:讀賣新聞オンライン2023年7月18日記事「アルツハイマー治療薬「ドナネマブ」、米で承認申請…年内にも可否の判断出る見通し」

アデュカヌマブはアメリカで条件付き承認

「アデュカヌマブ」は2021年にアメリカで条件付き承認されたアルツハイマー病の新薬です。条件付き承認とは、まだ有効性を示すデータは不十分だが新薬として前倒しで承認することで、医療現場で広く利用できるようにする仕組みのこと。これにより臨床試験を加速させることができ、効果を証明しやすくなります。

こちらの薬が承認には至らず条件付き承認となった理由は、臨床試験の計画を途中で変更したことや、臨床試験での認知機能の改善効果が小さかったことが挙げられています。

日本でも2020年厚生労働省に新薬承認の申請が出されましたが、翌年承認は見送られ、継続審議中。今後アメリカで臨床試験が進み、晴れてアデュカヌマブの効果がきちんと証明されることを期待したいですね。

参考:研究紹介コラム 認知症の新しい治療薬アデュカヌマブについて(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターHP)

目指すはアルツハイマー病の根本治療

笑顔でほほえむ3人のシニア

長い間不治の病と言われ、有効な治療薬が存在しなかったアルツハイマー型認知症。近年になり、病気の進行スピードを抑えられる薬が世に出たことはとても喜ばしいことです。

これらの薬が効果を発揮するのは初期アルツハイマー病の場合であり、進行を遅らせるだけでまだ完全に治すことはできません。しかしこの成功がひとつの突破口となり、新たな発見や薬の開発につながる期待も高まっています。

当面の課題はコストの高さと副作用の問題。しかし全世界が切望している薬ですので、これらの課題もなんとかクリアして、ぜひ多くの患者と家族を笑顔にしてほしいですね。

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