介護の書類が多すぎる!急ピッチで進む負担軽減への動き

介護の仕事

書類の多さに悩む介護スタッフ
長く人手不足が続く介護業界。少ないスタッフで滞りなく現場をまわしていくためには、業務の効率化が欠かせません。しかし現状は、複雑な事務処理や多すぎる文書による負担が大きく、効率化の大きな壁となってしまっています。

この問題を解決すべく、厚生労働省では2019年から専門委員会を設置。介護文書の簡素化と標準化、ICT活用の3つの視点から検討を進めているところです。具体的には、複雑化した手続きの簡素化、地域ごとに異なるローカルルールの撤廃やハンコレスの流れ、文書のデータ保存などが対象に。以下で現在の進行状況と、今後の見通しをみていきましょう。

介護の文書負担、現状は?

介護の文書負担において、問題となっているのは大きく3つ。ひとつは自治体への指定申請や報酬請求などの際に求められる手続きが、複雑化していることによる負担です。

介護保険制度が始まって今年で21年目。その間サービス類型の増加や新たな加算の創設など、さまざまな改正が行われました。それによって手続きがどんどん複雑化しており、提出する側にとっても受け取る側にとっても負担が増大しているのです。

ふたつ目は、自治体ごとに異なるローカルルールの存在です。国が提出文書の様式を自治体に任せている場合、申請等で求められる文書の様式は自治体によって異なります。すると複数の自治体にまたがって事業を行っている事業者にとっては、それぞれの様式に合わせて文書を作成しなくてはならず事務負担が膨れ上がることに。そのため提出を求める文書の種類とその様式を全国で統一することが求められています。

3つ目は、現場で日々発生するケア記録やケアプラン、サービス計画書、事故報告書などの文書を作成、保存する負担です。種類によって2年~5年の保存義務があるものもあり、その量は膨大に。必要な書類を探し出す手間や保存場所の問題も、現場を悩ませています。

対策と進行状況は?

申請書

  • 手続きの簡素化
    現場の負担になっているのは、指定申請や報酬請求、指導監査のときに要求される書類の多さ。2019年度に行われた更新届についての都道府県向けアンケートでは、一番少ない自治体で2枚の書類提出で済むのに対し、最も多い自治体ではなんと149枚の書類を求めているところがありました※1

専門委員会では実態を把握したうえで、簡素化している自治体に合わせる方向での見直しを検討しているところです。すでに、重複する書類や再提出となる書類を省いたり、対面でなくてもよい届け出は郵送やメールも可とすることなどが決まりました。

また、押印が簡素化の妨げになっているという指摘があり、ハンコレスの流れが介護業界にも波及しています。2020年12月25日に交付された省令※2で、介護事業者が自治体へ提出する指定申請、報酬請求などの全ての書類について、今後は原則押印を求めないこととなりました。国が作成したテンプレートからは押印欄がすべて削除されており、自治体の準備ができ次第、順次こちらに切り替わっていくことになります。

その他、指定申請などで求められることがあった、管理者やスタッフの資格証の写しの原本証明。これも委員会で必要性が低いとされ、今後は原則求めないこととなりました。

さらに資格証に関しては、2021年1月に行われた有識者会議で、介護福祉士、ケアマネジャーなど介護・医療に関する31の資格が、マイナンバーと結びつけられることが決まりました※3。システムが実現すると、資格証明に際して原本やコピーを用意するなどの手続きに代わり、インターネットを通じてPCやスマホで電子的に行えるようになります。2024年度の運用開始を目指し、準備が進められることとなっています。

※1:平成31年度/令和元年度中に受付を行った介護老人福祉施設(特養)(入所定員50~99名)の更新申請文書対象


※2:介護保険最新情報vol.900「押印を求める手続の見直し等のための厚生労働省関係省令の一部を改正する省令」の公布等について


※3:「社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用に関する検討会 報告書」

  • ローカルルールの標準化
    とくに複数の地域で事業を展開する事業者の負担になっているローカルルール。提出書類の様式例や添付書類の範囲が示されていないものがあり、地域差が生じやすくなっているため、これに対し国は速やかに整備を進めているところです。

そのひとつとして、指定申請や報酬請求の際に提出する「勤務体制・勤務形態一覧表」について、2020年9月に厚生労働省は新たなテンプレートを作成しました。自動計算が組み込まれたExcel形式のファイルで、ホームページからダウンロードできるようにしています。

>介護保険最新情報vol.876 「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」の参考様式

その他の様式についても下記ホームページからダウンロードできるようになっており、原則これを活用することを求めています。

指定居宅サービス事業所、介護保険施設、指定介護予防サービス事業所、 指定地域密着型サービス事業所、指定地域密着型介護予防サービス事業所 及び指定居宅介護支援事業所の指定に関する様式例について(厚生労働省ホームページ)

  • ICTの活用
    介護現場では日々、ケア記録をはじめとする多くの書類が発生しています。作成する手間が大きいことはもちろん、なかには2年~5年の保存義務があるものも多く、紙媒体での保存が大きな負担となっています。

そこで2021年1月に行われた社会保障審議会の分科会※4では、今まで紙媒体で行っていた文書保存について、データでの保存も原則認めることが決まりました。ケアプランや重要事項説明書などでの利用者等への説明・同意等のうち、書面で行うものについても、原則としてデータ化が認められます。

法改正手続きなどで一部は間に合わないことが予想されるものの、2021年3月中に細かい内容が示され、4月から運用がスタートする予定です。

介護記録にICTを取り入れれば、保存だけでなく日々の記録作成や、報酬請求などの事務処理もグッと楽になります。メールやインターネットを介して書類をやりとりしたり、たくさんの保存書類の中から必要な書類だけを画面で確認したりできるようにもなるため、現場の負担軽減にかなり期待が持てそうですね。

こちらのコラムも参考に≫「介護記録を電子化しよう!スムーズな導入のポイントは?」

※4:第198回社会保障審議会介護給付費分科会(Web会議)資料

新しいやり方への転換期

書類を確認する介護スタッフ
介護文書の負担軽減への取り組みは、今スピード感をもって進められています。ただし国が改革を進めても、それに地方自治体がついてこられなければ、逆にローカルルールを増やしてしまうことにもつながりかねません。

また、ICTの活用により解決を図ろうとしている部分については、対応が難しい小規模な事業所も多く存在することにも注意が必要です。「制度が決まればもう安心」というわけではなく、現場にまできちんと反映され、浸透するまでのフォローにも力を入れていかなくてはならないのです。

昨今は感染症対策の観点から、社会全体が今までのやり方から脱却し、新しい仕事のやり方を取り入れようとする流れのなかにあります。介護業界もこの波に乗り、机と向き合う仕事はどんどん効率化され、代わりに利用者様と向き合う時間が充実できるようになればいいですね。

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