介護人材を呼びこめるか?政府の新たな就職支援策

介護の仕事

笑顔で就職活動している様子
コロナ禍で急激な変化を強いられる社会情勢のなか、介護業界は相変わらずかそれ以上の人手不足が続いています。そこで政府は令和3年度から、新たに介護職を目指す人に向けての就職支援を行うとの報道がありました。今回はその内容と背景についてご説明していきます。

果たしてこの施策が介護人材不足を解決に導くカンフル剤となるのか?期待される効果や、逆に懸念されることなど、介護業界の反応も交えてご紹介していきましょう。

「介護職就職支援金貸付事業」が創設

厚生労働省が令和3年度から「介護職就職支援金貸付業」という新制度を創設することが報じられました。※1これは、介護未経験者が福祉分野に就職すると「20万円の支援金を支払う」というもの。

詳しい内容をみていくと、まず求職者は介護職の入門資格である「介護職員初任者研修」を無料で受講でき、講座受講中も月10万円の給付金を受給できます。資格取得後、福祉・介護施設に就職が決まった段階で、求職者には就職支援金として20万円が支給されます。基本的には貸付という形で返済の義務があるのですが、2年間現場で働くなどの条件を満たすことで返済が免除されます。

支給される20万円の使い道は基本的に自由。通勤用の自転車の購入費や引っ越し費用、仕事に使うかばんや靴などの購入費が想定されていますが、実際何に使ったかまで詳細に報告する必要はありません。

以前から、介護の資格保持者に向けて復職を促す「再就職準備金貸付事業」は実施されていましたが、今回は「新しく介護の仕事を始める人」がターゲット。無資格、未経験の人まで幅広く対象としている点が大きな違いであり、新たな試みとなっています。

こちらのコラムも参考に>不足する介護人材、どう確保?国の対策もチェックしよう

※1:参考記事「他業種から人材流入を 厚労省、20万円上限に貸付」(週間 高齢者住宅新聞 Online)

幅広く介護職への人材流入を促す狙い

人手不足
この背景には、介護福祉士を目指す人がどんどん減少している現状があります。日本介護福祉士養成施設協会の調査※2によると、介護福祉士を養成する学校への入学者数は減少の一途をたどっています。令和2年度では、外国人留学生の入学者数が過去最多になった一方で、日本人入学者数は過去最少に。

外国人留学生については、新型コロナウイルスが流行する以前から国内にいた学生が多かったため、入学者数にそれほど大きく影響しなかったようです。しかし来年度は外国人留学生の数もガクンと減少することが予想されるため、介護人材の不足は危機的状況。こうした現状の改善を目指し、他業種からの人材流入を促す目的で創設されたのが介護職就職支援金の制度なのです。

密になることがタブーとなってしまったコロナ発生後の世界では、飲食業界や旅行業界等が甚大な影響を受け、すでに失業者も多く出ています。一方で介護業界は深刻な人手不足が続いていることもあり、厚生労働省はこの政策によって「新たに多様な人材の参入を促進することで、失業者の一定の受け皿となることを目指す」としています。

※2参考記事:「介護福祉士養成施設への入学者数と外国人留学生」(介養協ホームページより)

介護現場で働く人の反応は?

仕事を求める人と、働き手を求める業界をうまくマッチングする、とても良い考えのように見えるこの施策。しかし実際のところ、そんなにうまくいくのでしょうか?このニュースに対して介護業界で働く人たちの反応をみてみると、批判的な意見も多くみられました。

まず多く聞かれた意見が、「現場にしっかりとした指導者がいないと介護の質が落ちる」「未経験者ばかり増えても、教える方の人手が足りないと現場が混乱するだけではないか」など、受け入れる介護現場の負担を懸念する声です。

また、お金というわかりやすいものを提示することで、介護職に適性のない人まで流入してしまう可能性を懸念する声もありました。介護職として現場で活躍するためには、感情のコントロール能力やコミュニケーション能力、人に対する思いやりなどが欠かせません。そういった覚悟を持たない人が「20万円のために少し我慢して働こう」という気持ちで来られても、現場が迷惑するだけだという考え方です。

介護職経験者の多くの意見は、「未経験者にお金を出すより、今現場でがんばっている現職の介護職の方々に対して待遇改善を急ぐべき」というもの。現職の方を好待遇にして離職率を下げるほうが、より効率よく人材を確保できるという考えです。現職が辞めなければ後輩を指導できる人材も確保でき、指導者不足に悩む必要もなくなります。現場がうまくまわっていて待遇も良ければ、自ずと新規の人材も集まってくるといいます。

全体として、介護業界を選択肢としてもらうきっかけとしては良いが、お金だけでは失敗するのではないかというのが大半の反応のようです。

施策を成功させるカギ

否定的な意見もありますが、なんとかこの施策が成功し介護人材不足の解消に役立ってもらいたいというのがみんなの本音。そのためにはどうしたら良いのでしょうか。

まず、介護の質の低下や現場の混乱がおきないよう、適性のない人をふるいにかける一定の段階は必要だと考えられます。その点、新施策では20万円受給の前に、まず130時間の「介護職員初任者研修」を修了し、その後介護施設に就職を決める必要があります。

研修の段階で介護職としての基本や心構え、接遇マナーなどについても学びますので、自分が2年以上続けられそうかどうか、ある程度考えることはできるはずです。また介護施設に就職する際にも、施設側から面接で適性をチェックされることでしょう。雇う側もこの時点でしっかりと人柄や能力を見ていきたいですね。

さらに「新人を入れたはいいが、ほったらかし」では、人材として育つものも育ちません。この制度を利用して流入してくる人たちは、異業種から来る介護の未経験者ですから、はじめはうまくできなくて当然です。施設側はそれも想定し、受け入れ体制、教育体制をしっかりと構築しておくことが必要になるでしょう。

これらとあわせて欠かせないのが、現職介護職員の待遇改善をよりいっそう進めていくことです。いくら新人を確保しても、現職が次々に辞めていくようでは一向に人手不足は解消されません。すでに介護職員に対する処遇改善加算の措置はとられており、これを取得している施設・事業所では、平成31年と令和2年の比較において18,120円の増(月給・常勤介護職員の場合。月額基本給+手当+一時金)と、2万円近いアップとなっています※3

ただしこれは介護従事者のうち看護職や管理者も入れた平均値。通所介護や訪問介護、パートなどで実際に現場を担っている介護職の人たちにとっては、まだまだ専門職の労働に対する対価として不十分だとの認識があるようです。介護人材の裾野を広げる施策とともに、新人教育や今後のリーダーを担う中間層に対する支援策も、いっそう充実させていくことが欠かせません。

※3参考資料:第31回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会(web会議)資料(厚生労働省ホームページ)

介護職の魅力に気付くきっかけに

介護職初心者
コロナ禍で注目を集めたエッセンシャルワーク(日常生活を維持していくために無くてはならない職業)。そのなかでも常に安定した需要のある介護業界は、安定性や将来性において大きな魅力を持っています。また、利用者様やご家族の人生に深く関わり学ぶことで、たくさんの感動と出会うことができる仕事です。

ただし肉体的・精神的にハードであることは紛れもない事実。決して簡単な仕事ではありませんが、資格取得に必要なお金など、一時的な資金不足が心配で介護の仕事に踏み出せなかったという人にとっては、力強く背中を押してくれる制度であることは間違いありません。

もちろん根本的な人材不足の解消につなげていくためには、働く環境を整えることが欠かせません。この制度が多くの人に介護という仕事の魅力に気付いてもらえるきっかけになることを期待しています。

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