入居者と介護職員を守るための、介護施設の感染症対策

介護の仕事

消毒作業をする女性スタッフ

新型コロナウイルスの感染拡大以降、一般企業にはテレワークが広がりつつあります。しかし、病院や介護施設などの身体的な接触を伴う職場の場合は、在宅勤務というわけにはいきません。とくに、介護施設は免疫力が低下している高齢者が集団で生活する場所ですので、感染が広がりやすい状況であることは事実です。

しかし、そのような場所だからこそ、感染リスクを抑えるため、国をあげて感染症対策のルールをつくり、各施設でもかねてより感染症に対するスタッフの意識の向上や予防に重きをおいています。
では具体的に、どのような対策がとられているのでしょうか。実例をもとに、対策について見ていきましょう。

介護施設で発生する感染症の原因は?

感染症は、介護施設内で自然発生することは非常にまれで、感染した人によって外部から病原菌が持ち込まれることがほとんどです。介護施設には、職員だけでなく施設内での業務を委託する業者や面会に訪れた家族など、さまざまな人が出入りしており、全ての人が病原体を持ち込む可能性をもっていると言えます。

【介護施設に出入りする主な人】

  • 医師や看護師を含む職員
  • 清掃や給食の委託業者
  • 家族などの面会者
  • 介護ボランティア
  • 実習生
  • 新規入所者や短期利用者

主な感染経路は?

感染経路は、主に3通りあります。

1.接触感染
手や指などが直接触れることや、食品やドアノブ、手すり、スイッチ、器具などを介して病原菌が口から体内に入り感染。

2.飛沫感染
咳やくしゃみ、会話によって飛んだつばやしぶきに含まれる病原菌を吸い込むことで感染。

3.空気感染
飛沫粒子が乾燥して小さくなったものや、もともと小さい5マイクロメートル未満の粒子は「飛沫核」として空中を浮遊します。この飛沫核に含まれるウイルスを吸い込むことで感染。

国が策定する感染対策マニュアル

打ち合わせするドクターとナース

介護施設の感染症対策は厚生労働省によっても明確にルール化されています。このルールをまとめたのが、「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」※です。
最新の動向や医療的知見をふまえて改訂が進められており、2020年6月現在の最新版は2019年3月にまとめられた改訂版です。

マニュアルには、感染症に関する基礎知識や管理方法、感染症が発生した場合の対応などについて明確に示されています。そして、各施設はこのマニュアルに基づいて、独自に指針やマニュアルを作成し、対策を実践することとされています。

※高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index_00003.html

【マニュアルで明記されていること】
・感染対策の基礎知識と標準予防策
介護施設における感染の主な要因や感染経路といった基礎知識をはじめ、感染拡大を防ぐために必要な対策や日頃の予防策について、正しい知識が記載されています。

・感染経路別の予防策
感染する可能性のある経路や、それぞれの感染経路に対する予防策が記載されています。

・施設長や職員への啓発
介護施設には、感染症の発生や感染拡大を防止するために、「感染対策委員会」を設置することが義務付けられており、各施設ではこの委員会が主体となって感染対策の方針や計画を定めています。マニュアルでは、メンバー構成例から活動内容、指針作成の目的まで細かく記載し、施設長をはじめ介護施設で働く職員がやるべきことを明確化。その大切さを説いています。

・感染症ごとの対応方法
インフルエンザ・ノロウイルス・疥癬(かいせん)・結核・肺炎など、代表的な感染症に関して、平常時の対応や疑うべき症状、発生時の適切な対応方法が詳細にまとめられています。

・介護施設ならではの感染症対策
生活の場である介護施設は、病院とは異なる面も多くあります。感染に対する抵抗力の低下や認知機能の低下した入所者がいる介護施設ならではの知見をふまえた予防策についても記載されています。

介護施設で実施されている感染症対策例

手洗いの様子

先に述べたように、介護施設で発生する感染症は、外から持ち込まれる病原菌が原因であることがほとんどです。そのため、病原体を「持ち込まないこと」「持ち出さないこと」「拡げないこと」に配慮し、次のような対策を行っています。

・マニュアルの作成
国が策定するマニュアルに基づいて、各施設が実践する感染症対策をマニュアルにまとめています。

・手洗い、手指の消毒の徹底
ほとんどの施設では、職員だけでなく、出入りする業者や面会に来るご家族も、施設や居室に入る際は手洗いや手指への擦り込み式の消毒を必須としています。入居者に対しても、食事の前後や排泄後などは手洗いの介助を行ったり、おしぼりで手を拭いたりして、衛生に配慮しています。

・ワクチン接種
インフルエンザやB型肝炎など、ワクチンで予防できる疾患については、職員は可能なかぎり予防接種を受けます。

・手に触れる部分の消毒
ドアノブや手すり、スイッチなど、手に触れる部分、介助に使用する器具やリネンなどを消毒しています。

・入居者の健康管理
感染拡大を防ぐには、早期発見と早期対応が重要です。職員は、入居者の既往症や治療経過を含め、発熱や嘔吐、下痢、腹痛、咳、頭痛などの全身状態を日々の介助のなかで把握し、異常がないか観察・記録しています。

・職員同士の連携
感染症が発生した場合、状況を把握するために、担当者会議で感染ルートなどの情報共有を行うほか、主治医から診断書などを提出してもらいます。また、入居者に疑わしい症状が発生した場合はただちに医師や看護師に報告します。

・職員研修
感染症に対する知識や意識の向上はもちろんですが、感染症にかかった人への差別や偏見を防ぐために、正しい知識を学ぶ研修を実施しています。厚生労働省のマニュアルでは、年に2回以上実施することが推奨されています。

入居者が感染症にかかった場合の対処法

施設長に報告をして、入居者に対して必要な医療措置が取られるのはもちろんのこと、感染拡大を防ぐため、マニュアルにしたがって次のような対応がなされます。

  • 居室の隔離
  • シーツや衣類などを個別に洗濯、消毒
  • 面会や施設見学の自粛
  • 市町村や保健所への報告

感染症が持病の悪化や二次感染を引き起こしたり、体調不良による嘔吐が誤嚥性肺炎につながることも。感染症を治すだけでなく、介助にあたる職員や医師・看護師が連携しながら全身の症状に注意を払う必要があります。

また、新規に介護施設をご利用になる方には、健康診断書などの提出を求め、感染症の有無を必ず確認しています。これは、既存の入居者や職員の身を守るためには必要なこと。ただし、日常生活で感染するリスクが低い感染症の場合は、これを理由に入居を拒否することはできません。施設には、介護を必要とする方に対して、安心して生活できる場を提供することが福祉法によって義務付けられているからです。

高齢者を感染症から守る介護の仕事

笑顔で食事介助する様子

職員一人ひとりが正しい知識を持ち、厚生労働省の感染対策マニュアルに沿って各施設で定めたルールを守ることで、高い確率で感染症の発生は防げます。そのために介護施設では、企業や商業施設など一般的な職場に比べると非常に細やかに行動指針が定められ、感染症が発生する前から、日常的に注意深く対策が取られているのです。

そして、マニュアルと同様に大事なのが、日々のケアです。おいしく食事をとってもらい、身体を清潔に保ち、レクリエーションで笑っていただく。毎日をいきいきと楽しく過ごしてもらうことで免疫力の向上も期待できます。介護職員は、そんな楽しい時間をつくり共有できる仕事。やりがいと責任をもって入居者の皆さんを感染症から守っていきましょう!

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