義務化される介護施設の安全対策担当者。その内容は?

介護の仕事

ほほえむ女性介護職員

転倒、転落、誤嚥などの介護事故を、できる限りゼロにしたい。介護現場では普段から、ヒヤリハット事例の分析や「事故発生防止委員会」の定期的な開催などを通じて、リスクマネジメントに取り組んでいます。

ただ、施設によって取り組み方の程度に差があることも事実。また、センサーやカメラによる見守りなどICT普及が進むなかで現場も大きく変化しており、その対応が迫られています。そこで厚生労働省は2021年4月の介護報酬改定で、施設系サービスのすべてで安全対策担当者を選任することを義務化決定しました。

「安全対策の担当者」とは具体的に何をする人なのでしょうか?義務化となった背景と意図、また担当者に求められる役割等について、以下で詳しくみていきましょう。

安全対策担当者の選定義務とは?

2021年4月から、すべての施設系サービスで、安全対策を担当する職員の選定が義務化されることになりました。これには6ヵ月の経過措置期間が設けられているので、遅くとも9月中までに対応を終えておけばよいことになります。

選定された職員は、事故発生の防止のための安全対策を専任で担当します。2018年に全国の特別養護老人ホームを対象に行った調査では、すでに54.1%の施設が専任担当者を設置していましたので、今回とくに対応の必要がない施設も多いでしょう。対応の必要があるのは、これまで専任担当者を置いていなかった施設となります。

ちなみに「専任」というのは、専らその業務を任されて担当することを指します。その業務しかできないわけではなく、専任業務に支障がなければ他の業務を兼任しても差し支えありません。

たとえばフロアリーダーが安全対策担当者となる場合には、リーダー業務が忙しくて安全対策業務を十分にできないようだと、専任担当者とはいえなくなります。その場合には業務を単一化し、安全対策に専念できるようにする必要があるでしょう。

※介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業

義務化の背景を知っておこう

老人ホームのイラストイメージ

義務化となった背景には、調査によって浮き彫りになった安全対策への取り組み方のばらつきがあります。たとえば前述の調査では、事故発生の防止のための指針を定期的に見直している施設は全体の21%。まったく見直していない施設は21.3%存在しました。

さらに、指針に基づくマニュアルについても、定期的に見直している施設は全体の25.2%で、見直していない施設が13.5%。このように見てみると、安全対策にしっかり取り組んでいる施設もある一方、手が回っていない施設も一定数存在している様子がわかります。

また、昨今は介護の分野にICTの導入が進んでおり、多くの業務が従来のやり方と様変わりしてきています。たとえば見守り機器の導入により、それまでの目視での安否確認から、スタッフルームでのモニター確認に置き換わるケースなど。スタッフ全員が機械の操作方法をしっかりと身につけることはもちろん、見落としのないチェック方法の周知、いざ異変が起きたときの対応方法、かけつける際の優先順位の付け方などにも検討が必要です。

新たな仕事のやり方のなかで起こりうる事故を予防していくためには、定期的な事故防止委員会でリスク事案を想定・共有し、そこで検討したことをマニュアルにアップデートしていくといった作業が不可欠です。専任担当者をおくことでこうした作業が滞ることを防ぎ、すべての施設に安全対策を定着・浸透させるという狙いがあります。

政府はこのほかにも、介護事故予防や再発防止の取り組みが十分でない施設について、基本報酬を減算することも視野に入れて検討中とのこと。今後の動きにも注目していきたいですね。

安全対策担当者の仕事とは

安全対策担当者は、安全対策への取り組みの中心人物として、PDCA(plan:計画→do:実行→check:評価→act:改善)サイクルをまわしていくという役割を担います。主要な仕事内容をみていきましょう。

まずは事故防止委員会の中心的メンバーとして、委員会を定期的に開催し、施設で起きている介護事故やヒヤリハット事例を収集・把握。委員会でそれらの分析や、再発防止策に関する検討を行い、とりまとめてスタッフに周知徹底していきます。またこれらの内容を受けて、事故防止のための指針・マニュアルの作成や見直し、事故防止のための職員への研修内容などを検討することも仕事です。

大変そうですが、発生した事故やヒヤリハットの詳しい分析などは、委員会メンバーで話し合って進めていきます。決して担当者が一人で抱えこむわけではないので安心してください。

担当者に求められることは、委員会を単なる報告会に終わらせず、再発防止のための計画(plan)を引き出し、マニュアルや研修内容に反映するなど実行(do)すること。また取り組みがどうなったかを次回の委員会で報告、検証(check)してさらなる改善(act)につなげることです。このPDCAサイクルが滞らないようまわしていく、エンジンのような役割と心得ておきましょう。

どんな人が安全対策担当者に適している?

安全対策担当者になるために必要な資格等は、とくに設けられていません。ただし、上記のような仕事を担うことになるため、一定の知識と経験を持つ、中堅以上のスタッフが適しているでしょう。

職種については、前述の調査で専任担当者をおいていた施設で一番多かったのが「介護職員」で、7割近くにのぼりました。次に「生活相談員」、「看護職員」、「施設長」と続きます。利用者様の一番近くで生活を見守っている介護職員は、実際にヒヤリハットに遭遇することも多く、実情に即した取り組みができるという利点がありますね。

「うちの施設には安全対策に詳しい人材がいない」という場合は、まずスタッフ数人に介護のリスクマネジメントに関する外部研修を受けてもらい、そのなかから担当を決めるようにしても良いでしょう。政府は、外部の研修を受けた担当者を置くなど体制強化に努めている事業所は、何らかの形で評価することも検討中だということです。

かいごGardenでは目的に合わせ講師を派遣する研修プログラムや、研修動画の配信サービス等をご用意しています。リスクマネジメント研修もありますので、何から取り組むべきか迷っているという場合はぜひご検討ください。

研修プラス

組織全体での取り組みが成功のカギ

さまざまな職種の職員同士が話し合う様子

「今まで事故報告会で共有はしていたものの、十分な検討ができずそこで止まっていた」「こまめにマニュアルにまでは落とし込めていなかった」など、専任担当者がいなかった施設で起きていた問題も今回、安全対策担当者の選定が義務化されたことで、少なくなっていくでしょう。

ただし誤解してはならないことは、「担当者さえ決めればよい」というものではないこと。目的は「介護現場から事故を減らすこと」であり、それは施設のトップをはじめ、そこで働くスタッフ全員が当事者意識を持って取り組んでこそ達成できるものだからです。担当者を孤独にすることがないよう、みんなで支える体制作りが成功のカギといえるでしょう。

より安全な環境で、利用者様に安心してサービスを受けてもらえるよう、スタッフ全員の気持ちを合わせて事故のない介護現場を目指しましょう。

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