ここ数年でずいぶんと世に広まってきた「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」という言葉。「Sustainable Development Goals」の頭文字をつなげたもので、日本語にすると「持続可能な開発目標」ということになるのですが、これを聞いて内容までピンとくる人は少ないかもしれません。
「SDGs=持続可能な開発目標」の意味を簡単にいうと、「人類が地球で存続し続け、繁栄していくためには何をすればよいかを考えたもの」。
今、世界のあちこちで争いが起き罪のない人が大勢亡くなったり、貧困で飢え、教育の機会を与えられない子供達がいます。また気候変動の影響で、大規模な自然災害がひんぱんに起きるなど、このままでは人類の未来は暗いと言わざるをえません。
この美しい地球で、これから先の未来も平和に暮らし続けられるように、私達は行動を変える必要があります。介護の分野においても例外ではなく、SDGsを念頭に置いた取り組みが求められています。明るい未来のために介護でどんなことができるか、一緒に考えてみませんか。
なぜ介護がSDGsに取り組まなくてはならないの?
地球の急激な気候変動、破壊が進む自然環境、貧困に苦しむ人達・・・。多くの深刻な問題が今、待ったなしで突き付けられています。地球を守り、これから先も平和に暮らしていくために、SDGsは国を問わず世界中で、あらゆる業界で今すぐに取り組まなくてはならない目標です。
地球規模の問題を相手にしているのだから、一部の人や一部の国、一部の業界ががんばるだけでは歯が立ちません。あらゆる業界で、すべての人がそれぞれの行動を変えていくことが必要です。介護業界ももちろん例外ではなく、介護と結びつきの深い分野で、SDGsの達成に向けて取り組むことが求められています。
SDGsに取り組むことは企業としての責任を果たすだけでなく、働いているスタッフにとっても、ひとつの目標に向かって団結する一体感やモチベーションを高める良い影響があります。求職活動をしている人にとっても、きちんとSDGsに取り組んでいる施設は信頼感があり魅力的。
また社会の問題を自分ごととしてとらえ、将来について真剣に考えている姿勢は、利用者様やご家族、取引先、近隣住民の方々から「信頼できる」「誠実」といったイメージを持たれることにもつながります。
SDGsの17の目標
SDGsを達成するまでの具体的なアプローチとして、目標は17に細分化されており、それぞれの目標につき平均10個ほどのターゲット(合計で169)があります。達成期限として定められた2030年は、もう数年先まで迫ってきています。
《SDGsの17の目標》
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
介護という事業とのつながりを考え、以下では「3.すべての人に健康と福祉を」と「5.ジェンダー平等を実現しよう」の2つをピックアップして掘り下げてみます。
「3.すべての人に健康と福祉を」に取り組む
この目標には「あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」というサブタイトルがついており、13のターゲットが設けられています。ターゲットの多くは医療や保健衛生が行き渡っていない開発途上国を想定したものですが、日本においても当てはまるものがあります。
たとえば認知症や精神障害などで自分から助けを求められない孤独な高齢者などは、こちらがただ待っていても支援の手を届けることができません。引きこもり状態などの場合、こちらから訪問して援助することが必要です。これを外に手を伸ばす意味のOutreachから「アウトリーチ活動」と言います。
たとえばケアマネジャーが在籍している介護事業所なら、SDGsの取り組みとしてこのアウトリーチ活動に取り組んでみるのも一案。通常の施設運営に支障の出ない範囲で、介護拒否等でサービス利用につなげられていない方に継続的に連絡をとり傾聴するなどの活動を行います。
SDGsの取り組みとして行う場合には、担当者の自主性に任せるのではなく、上司や周囲がこの活動を行うことの重要性を理解し、定期的にミーティングを行うなど施設全体で推進することが大切です。
「5.ジェンダー平等を実現しよう」に取り組む
この目標には「男女平等を実現し、すべての女性と女の子の能力を伸ばし、可能性を広げよう」というサブタイトルがついており、9つのターゲットが設けられています。主に想定されているのは女性差別や児童婚が多い国や地域ですが、日本でも女性のリーダーや管理職が少ないことは深刻な問題となっています。
介護施設においても、現場で働くフロアリーダーなどは女性が多くても、管理職となるとほぼ男性ばかり、というところも多いのではないでしょうか。女性も管理職にチャレンジできるよう、制度や雰囲気について考えるプロジェクトチームを立ち上げ、「2030年までに女性管理職○%」といった具体的目標を掲げるのもよい取り組みになるはずです。
また9つのターゲットのなかには、「女性が担ってきた育児・家事・介護の価値を正しく認めるべき」といった主旨の文面があります。まさに今、介護という仕事が社会的に低く見られたり、給与額に納得感がないといった問題があるのは、こういった背景があるからではないでしょうか。
たとえば介護の専門性や社会的価値について、ホームページや施設広報誌などで継続的に発信したり、近隣の学校などで出前授業をするなど、介護についての正しい理解を世に広めるという取り組みもSDGsの一環として考えられそうです。
介護施設のSDGsへの取り組み事例
各地の介護施設で行われているSDGsへの取り組みについて、事例をご紹介します。地域住民に向けた介護予防教室を開催したり、省エネや廃棄物の削減、女性が働きやすい環境作りに力を入れるなどの取り組みが積極的に行われています。
介護のプロならではの視点でSDGsに取り組もう
たとえば自動車製造業ならCO2を出さない車を作る、喫茶店チェーンなら仕入れ先のコーヒー農園で児童労働がないことを確認したり生産技術支援を行うなど。それぞれの企業がそれぞれの立場でできることに取り組んでいくことで、社会全体を変える大きな力となり、17のゴールに向かって力強く進んでいくことができます。
介護施設としてSDGsに取り組むなら、介護のプロとしての目線を最大限に活かした内容にするのがポイント。内外への説得力、訴求力が生まれ、推進しやすくなります。
そして、取り組んだことはぜひホームページやSNS、広報誌などで発信していきましょう。社会的意義のあることに取り組んでいることは、施設内で働いているスタッフの誇りとモチベーションに。また若い世代はSDGsへの意識も高いので、新たな人材を獲得する際にも好影響が期待できます。
SDGs達成の期限である2030年はもうすぐそこ。「誰かがやってくれる」「そのうちなんとかなる」はもう通用しないところまで来ています。できることからさっそく始めていきましょう。