飲み込む力や噛み砕く力が衰えた高齢者の食事は、むせたり誤嚥(ごえん)したりしないように、安全に食べてもらうことが大切です。さらに栄養バランスもよく、見た目にも食欲がわき、味もおいしい食事を楽しんでもらえれば、これほどいいことはありません。
楽しく食べてもらえる介護食を作るには、調理法はもちろん、高齢者の体の機能や栄養バランス、病気の症状や対応法などの専門知識が必要です。
「介護食士」や「介護食アドバイザー」の資格があると、要介護者のための食事を作る専門知識を学び、身につけたことの証明になります。
資格の取得方法や2つの資格の違い、現場での活かし方などをご紹介します。料理することも食べることも好き、人に食べてもらうことも好き、という方は介護現場で特技を生かせる資格として注目してくださいね。
介護食士の仕事場、仕事内容
介護食士は国家資格ではなく民間の資格で、公益社団法人全国調理職業訓練協会が主催・認定しています。介護に携わる人の調理技術を向上させる目的の資格制度で、1~3級があります。
この資格を持っていると、高齢者に食事を提供する介護施設(グループホームや特別養護老人ホーム、デイサービスなど)で、おいしくて食べやすい介護食を調理したり、よりきめ細やかな食事介助をしたりすることに役立ちます。また、一人ひとりの健康状態にあわせたメニューを考案することや、新しい食材の調理法の工夫や導入などを担当することも大切な仕事のひとつ。
訪問介護のホームヘルパーも調理介助を通じて、利用者の健康維持をサポートできます。たとえば、偏った食事で低栄養になりそうな人には、おいしく栄養のある献立を提案したりなど。
利用者宅にある食材を生かして作るアドバイスもできますから、より頼りにしてもらえることでしょう。
介護食士になるには?資格の取得方法
介護食士の資格を取る方法は2つ。
ひとつは、講習会を開講している大学や専門学校などの学生として受講すること、もうひとつは一般を対象とした講習会を開講している専門学校などで受講することです。
介護食士の受験資格・講習内容〜3級の場合〜
【受験資格】
誰でも受講・受験できます。
【講習内容】
学科(25時間)
- 高齢者の身体機能、心理
- 栄養学の基礎知識(栄養学の基本、高齢期の食と栄養など)
- 食品学、食品衛生学(食品や調理する際の衛生の知識など)
実習(47時間)
- 調理実習、調理理論(おいしく、食べやすく、飲み込みやすい「介護食」の調理)
介護食士の受験資格・講習内容〜2級の場合〜
【受験資格】
介護食士3級取得者
【講習内容】
学科(16時間)
- 医学的基礎知識(高齢者がかかりやすい症状と病気など)
- 高齢者の心理(老化による心の変化など)
- 栄養学、食品学、食品衛生学(食材の衛生管理など)
実習(56時間)
- 調理実習、調理理論(普通食から「介護食」への展開方法、生活習慣病予防食など)
介護食士の受験資格・講習内容〜1級の場合〜
【受験資格】
介護食士2級取得後、2年以上介護食調理の実務に従事した25歳以上の人
【講習内容】
学科(32時間)
- 医学的基礎知識(栄養状態の判定、食品と薬の関係など)
- 高齢者にかかわる制度
- 栄養学(低栄養を考慮した献立作成など)
- 食品学、食品衛生学
実習(40時間)
- 調理実習、調理理論(身体機能や疾病を想定した献立の作成と調理)
いずれも、講習会修了後に修了試験を受験して合格すると、資格を取得することができます。
介護食アドバイザーとは?資格の取得方法と講座内容
介護食アドバイザーも民間の資格で、一般社団法人日本能力開発推進協会が主催しています。
医学、栄養学の基礎知識に加えて、口腔ケアや食べさせ方の実践スキルを学び、普通の食事に見た目が近い「軟菜食・ソフト食」の介護食レシピをマスターできます。
介護食アドバイザーの受験資格・講習内容
資格を取るには、協会の認定する介護食アドバイザー資格取得講座※を通信教育で受講します。
【受験資格】
誰でも受講・受験できます。
【講座内容】
- 高齢者の身体機能、心理(老化による体と心の変化、高齢者との接し方など)
- 栄養学の基礎知識(栄養学の基本、高齢期の食と栄養など)
- 介護食の基礎知識(介護食の作り方、食べさせ方、介護食レシピ、食事介助のしかたなど)
- 高齢期の病気と食生活(高齢者がかかりやすい症状と病気、認知症とは、症状別食事の食べさせ方など)
課題修了後、資格試験を受験します。試験は在宅でテキストを見ながら受験でき、得点率70%以上で合格し、資格認定が受けられます。たとえ不合格でも、いつでも何度でも追試験が受けられます。
介護職士、介護食アドバイザーのより詳しい情報は、インターネットで資料を請求することができます。
※東京カルチャーセンター「介護食アドバイザー養成講通信座」とは別のものです。
介護食士と介護食アドバイザーの違いは?
介護食士の試験は、2級・3級は自宅で家族の介護をしている人も受けられますが、1級を受験するには2年以上の実務経験が要求されます。介護職であることが前提の資格だといえるでしょう。
講習会への通学と、3級から段階を踏んで学ぶ時間が必要ですが、施設や介護サービスでの経験を活かしながら、最新の知識や技能が身につけられることがメリットです。
一方、介護食アドバイザーの資格は、働きながらでも通信講座で受講できるのがメリットです。比較的短期間で介護食の基本知識をマスターすることができ、介護、医療、福祉関係の職員のスキルアップに役立ちます。
しかし、もう少し上のレベルに進みたくなった場合に、次のステップが用意されていないことを納得したうえで受講するのがよいでしょう。
介護食士、介護食アドバイザー資格は現場でどう活かす?
食事は利用者とスタッフのコミュニケーションの絶好の機会。見た目もおいしそうで、季節感あふれる食事をはさめば会話が弾みます。利用者の食欲も笑顔も増えれば、家族にとっても安心材料に。
スタッフと本人や家族との信頼関係があれば、ほかのケアも、よりスムーズに進めることができます。
ただ、介護食士、介護食アドバイザーはどちらも民間資格なので、給与面での優遇がすぐにあるわけではないのが実情です。しかし介護食についての技能を積極的に活かしていけば、あなたは現場になくてはならない人材だと認められていくことでしょう。
調理の現場では管理栄養士や医療スタッフと連携が必要ですから、栄養や高齢者の体のしくみについての専門知識の裏付けがあることで、自信を持って適切な対応ができ、評価が上がることが期待できるからです。
高齢者の食べる喜びや健康を支える資格です
食事は、季節の便り。旬の食材を食べやすく、美しく盛り付けた介護食を作ることができれば、食の制限がある高齢者にも、四季の変化を感じてもらうことができます。
もしも、あまり食べずに残す利用者がいたら、それこそが介護食の専門知識を活かすチャンス。利用者の体の不調をいち早く発見することができるかもしれません。
利用者の好みをよく知り、食べてもらいやすいメニューや調理法を工夫することができるのも、介護食の調理を専門的に学んだからこそ。
残す量がだんだん減っていくのも嬉しいことですが、いちばんやりがいを感じられるのは、完食して「おいしかった」「食事が楽しみになった」といってもらえたとき。工夫が実を結ぶ瞬間です。
食のスキルを磨いて、高齢者の食べる喜びや健康を支えてみませんか。