介護現場に新人が入ったら、なるべく早く知識とスキルを身につけて、独り立ちをしてほしいもの。ですが、そこまでうまく指導するのが難しい・・・そんな悩みを抱える介護リーダーさんがたくさんいます。
高齢者の生活を支える介護スタッフは、責任も重いうえ、日々待ったなし。新人への指導も、あまり時間を割けないというのが現場の本音。それでも新人には早く職場に慣れ、成長してもらいたい・・・そんなときに効果的なのが「ほめる」「叱る」を上手に活用することです。
介護現場の新人指導の具体的な方法と、新人のやる気を引き出すほめ方、叱り方のポイントについて、伝え方の例も交えてご紹介していきます。
初心者の育成方法、5つのステップ
ステップ1:育成計画をたてる
育成計画では、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後などで区切り、それぞれに目標を設定します。まったくの初心者の場合、1年後に自立して働ける状態になることを目標にしましょう。
目標を明確にしたら、それを達成するために「いつ」「誰が」「どうやって」指導するかを決めていきます。
例:いつ=業務時間中 誰が=スタッフ○○さん どうやって=OJT
ステップ2:レクチャーする
ステップ1で立てた計画をもとに、実際に説明して見本を見せます。
ステップ3.実施してもらう
頭で理解できたら、今度は指導役が見ているところで実際にやってもらいます。
ステップ4:ヒアリングする
やってみてどうだったか、自信を持ってできそうか、難しいところはどこかなど、本人の感じたことをヒアリングします。
ステップ5:評価する
できているところはほめ、できていない点はアドバイスを行い、必要に応じてステップ3からもう一度繰り返します。すでに他の施設等で介護経験を積んでいる場合は、ステップ4とステップ5を中心に行うと良いでしょう。
「〇〇さん育成計画」としてノートを1冊用意し、指導の詳細を書き込んでチームで共有しておくと、「教える人によって言うことが違うので何が正しいのかわからない」と新人を混乱させてしまうことがなくなります。
指導の際の注意点
・指導の責任者をはっきりさせる
指導の責任者を明確にして、メンバーで共有しておきましょう。指導役の知らないところで、ほかの先輩介護スタッフが違う指導をするなどを避けることができます。
・先入観を持たない
経歴だけを見て、これくらいはできるだろう、知っているだろうと考えるのは危険です。逆に本人のキャリアを軽視してしまうのもよくありません。若いリーダーが年上のスタッフに、事細かに指導しすぎたら、プライドを傷つけてしまい辞職に繋がってしまった…などという例もよく聞きます。
こちらで勝手に決めつけず、まず本人にきちんとヒアリングして、現在お持ちのスキルを把握しておきましょう。
・ちゃんと伝わっているかを確認する
こちらは伝えたつもりでも、相手に伝わっていないこともあります。ちゃんと理解できているか、その場で復唱してもらうようにすると安心です。
・理由や目的を伝える
やってほしいことを伝えるとき、なぜそれをするのか、その理由や背景もあわせて伝えるようにしましょう。なんのための行動なのかを知っていれば、勝手な判断で省いたり簡略化することを防げます。
やる気を引き出すほめ方のポイント
・自分もうれしそうにほめる
対面でほめるときは言葉だけでなく、ぜひうれしそうな表情もセットで。メールなど文章では、「対応がすばらしかったです」「助かりました」など、ほめる言葉の数を意識して増やしてみましょう。
・のびしろを伝えるほめ方
「いつも元気な声でいいですね。静かなトーンが好きな人のときは、〇〇するともっといいですよ」など。小さなアドバイスをはさむようにするのもおすすめです。
・経緯をほめる
「この1ヵ月お疲れさまでした。暑かったり忙しかったりで、いろいろと大変だったと思うけど・・・」など、結果だけでなくそのプロセスもほめるようにすると、ほめられた側のうれしさもアップ。「私の頑張りを、ちゃんと見ていてくれたんだな」と思えます。
・オリジナルな表現を使う
本人ならではの良いところをほめるのもおすすめ。
「こんな細かいところに気がつくのは、〇〇さんだからこそできること」「〇〇さんが△△してくれるから、みんな助かってますよ」「〇〇さんはいつも挨拶が気持ち良いですね」など。良い行動を具体的にほめましょう。
・第三者の声で伝える
良い話は、第三者の言葉で伝えると効果がアップします。「〇〇さんの娘様がほめてましたよ」「他のヘルパーさんが、〇〇さんのことすごいって驚いてましたよ」など。
そのためには、日頃からほめる材料を探しておくことが大切です。利用者さんのご家族と話すときなどに「担当させていただいている〇〇は頑張っていますか?」と、少し話題を向けてみるなど、普段から情報収集しておきましょう。
上手な叱り方、7つのポイント
(1)冷静に叱る
<怒ること>と<叱ること>は違います。くれぐれも「カッとなって感情をそのまま相手にぶつけてしまう」ことのないようにしてください。
ついカッとなりやすいという人は、アンガーマネジメントの手法を試してみましょう。イラッとしたら心のなかで6秒数え、その間に怒りを点数化します。一度怒りの出来事から気持ちをそらし、冷静になることで、売り言葉に買い言葉でトラブルになることを避けられます。
(2)状況を把握して叱る
叱る前に、なぜそうなったのか背景をきちんと聞くようにします。たとえば、「仕事中に私語をしていると思って頭ごなしに叱ったら、利用者さんのケアについて話し合っていたところで、スタッフに反発されてしまった」などという失敗を避けられます。
(3)根拠を明らかにする
「ルールだから」は×。これをすることによって利用者さんや介護スタッフ自身にどんなデメリットがあるかを伝えるようにしましょう。「実は私も良かれと思って〇〇していたら、こんな失敗をしたことがあって・・・」と自分の実体験を交えて話すのも効果的です。
(4)改善方向を示す
実際に見本をみせたり「あなたに望んでいることはこれです」とはっきり説明するようにします。
(5)期待感を伝える
「〇〇さんのキャリアなら大丈夫ですよ」「〇〇さんにはずっと頑張ってほしいから・・・」など、自尊心を高めてもらえるワードを盛り込みましょう。
(6)一叱一時
叱る時には一つのことだけを叱るようにしましょう。「そういえば、前もこういうことがありましたよね」などと、以前のことを持ち出さないように気をつけてください。
(7)周囲への影響
ネガティブな雰囲気は周囲に伝染するため、叱る時は一対一を基本に。ただ、トラブルがおきそうなら関係者も交えて話すことも考えましょう。
「叱る」は「ほめる」でサンドイッチ
叱るときは最初と最後に「ほめる」でサンドイッチするとうまくいきます。
サンドイッチした伝え方の例
「〇〇さんがよくがんばってくれてすごく助かるって、Aさんがほめていましたよ」=ほめる・認める
↓
「ところでひとつお願いなんですが、〇〇するときは△△を確認するのだけ徹底してもらえますか?一度××だったことがあったので・・・」=叱る
↓
「これからも一緒にがんばりたいので、すみませんがよろしくお願いしますね」=ほめる・認める
「ほめる」も「叱る」も目的は新人指導
ほめることと叱ることは、一見正反対のようにも思えますが、実はどちらも「相手の成長を促すのが目的」という点で共通しています。
ほめることは働く人の気持ちを高める、リーダーに欠かせないスキル。苦手でも、努力して続けるうちに上手になっていくので、ぜひ実践してみてくださいね。