介護におけるユマニチュードの考え方と方法を知ろう

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高齢者に手を添え見つめる介護スタッフ
ユマニチュードとは、「人と人との関係性」に着目した、フランス発の認知症ケア技法です。日本では2014年にNHKの番組で取り上げられて注目を集めて以来、導入に踏み切る病院や介護施設も増えてきています。

あまりに認知症の人の反応が変わるため、魔法のようだと言われることもあるユマニチュードの技法。ですが決して魔法ではなく、誰でも実践できるように150を越える技法が考え出されています。今回はその考え方と具体的な方法についてご紹介していきます。

ユマニチュードの哲学:絆を結ぶ

ユマニチュードの技法を実践してみる前に、まず、基本となる考え方をご紹介します。「このプロセスは何のためにやっているのか」が分からないままでは、形をなぞるだけになってしまいがちです。まずは本質の部分をしっかりつかんでおきましょう。

ユマニチュードは、介護を必要とする人との間に「人と人との関係性=絆」をつくる技法です。人間はなぜ人間らしくなるのでしょうか?生まれたばかりの赤ちゃんは、自分では何もできません。周りの人に愛情のこもった目で見つめられ、話しかけられ、やさしく触れられるなかで、はじめて自分が人間であると感じることができます。

しかし、誰にも見られず、話しかけられず、触れられずに過ごしていると、「人間として扱われている感覚」が薄れていってしまうことがあります。「人間らしさ」を認めてもらえない毎日を送っていると、介護職のケアに恐怖を感じて必死で抵抗したり、絶望して殻に閉じこもり、何にも反応しなくなってしまうことにも頷ける気がします。

ユマニチュードでは、介護を必要とする人との間に、よりよい関係性=「絆」を結び直していきます。そのための具体的な方法として、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱が設定されています。そして、出会いから別れまでを5つのステップに分け、望ましい関わり方を示しています。以下で詳しくみていきましょう。

ユマニチュードの柱(1)見る

ユマニチュードの「見る」技術は、「横から」「上から」や「ちらっと」ではなく、「真正面から相手の瞳のなかにしっかり入る」というもの。猫背で視線が下に下がっている方には、下からお顔をのぞき込んで視線をとらえにいきます。壁を向いて寝ている方は、ベッドを動かしてでも相手の視界に入り、視線をつかみにいきます。

そして、目が合ったら2秒以内に話しかけます。目が合わないと思っていた方と目が合うと、介護する側の方がびっくりして言葉が出てこないことがあるのだそう。すぐに話しかけて、自分が敵意を持っていないことを知らせましょう。

ユマニチュードの柱(2)話す

話しかけても反応のない相手に向かって話し続けるのは難しいものですよね。そこでユマニチュードでは、自分のしていることを実況中継するように話すことを勧めています。「今から背中を拭きますよ」「腕を上にのばしますよ」「お布団をかけますね」など、ケアの内容を言葉にしていくことで、話題が尽きることなく、常に話しかけ続けることができます。

「気持ちがいいですね」「あたたかいですよ」「さっぱりしますね」など、使う言葉は意識して前向きに。反応がなくても笑顔で話しかけることによって「あなたはモノではなく、大切な存在」というメッセージを送ることができます。

ユマニチュードの柱(3)触れる

ユマニチュードでの触れ方は、「広い面積で」「やさしく」「ゆっくり」です。顔や手、陰部の近くは敏感なのでいきなり触れるのは避け、上腕や背中などから順に触れるようにしましょう。

触れるときは飛行機が着陸するイメージで。手を離すときは反対に離陸するイメージです。手首や足をつかむのは、ネガティブなイメージを与えるのでNG。つかむ代わりに、やさしく下から支えます。慣れないうちはついつかんでしまいがちなので、親指を手のひらの横にいつもつけておくようにするとよいですよ。

ユマニチュードの柱(4)立つ

ユマニチュードでは、人間の尊厳は「立つこと」によってもたらされる側面が強いとして、これをとても重視しています。寝たままでいるとどんどん筋力が低下してしまうので、立つことができる人にはできるだけ立位になってもらいましょう。

たとえば着替えや歯磨き、清拭や洗面などのケアを、立位と座位を組み合わせて休憩しながら行うなど。細切れでも良いのでトータルで1日20分程度、立位になってもらう機会を作ります。

また、歩けるのに車椅子に乗せてしまっては、本人の歩く力を奪ってしまいます。その人のレベルに合ったケアを提供し、過剰にならないよう気をつけましょう。

ユマニチュードの5つのステップ

5
次に、ユマニチュード実践の流れを5つのステップでご紹介します。

  1. 出会いの準備

まず扉を3回ノックして3秒待ち、返事がなければもう一度これを繰り返す。それでも返事がなければ1回ノックして部屋に入る。認知機能が低下している人にも、徐々に自分の存在に気付いてもらい、驚かせないようにするため。

  1. ケアの準備

正面から近づき、相手と目があったら2秒以内に話しかける。このとき、挨拶後にいきなり「体を拭きに来ました」などとケアの話をしない。まず「○○さん、お話をしにきました。少しよろしいですか?」と、「あなたに会いたいから来た」ことを伝える。反応が肯定的なら「お話しできてうれしいです」などと会話を続け、その流れで「お話のついでに、少し体を拭いてもかまいませんか?」などと提案する。

ケアを断られたら、「そうですか、ではまた今度うかがいますね」と言って引き、ステップ5「再会の約束」に進む。「どうしてもケアをしなくては」と考えると強制的になってしまうため、目安として「3分以内に同意が得られなければ」いったん諦め、緊張をやわらげてから後でもう一度試みる。

  1. 知覚の連結

ケアでは、笑顔と穏やかな声、それにやさしく触れることをセットで行う。たとえば、顔は笑顔で声もやさしいのに、腕を強くつかんで引っ張ると、視覚と聴覚はポジティブなのに、触覚がネガティブなメッセージに。矛盾したメッセージは相手を混乱させ拒否的な行動につながるため避ける。

2人がかりでケアを行う場合は、2人が同時にケアを行うのではなく、1人が相手と目を合わせながらケアを実況中継する役に徹し、もう1人が黙ってゆっくりとケアを行う。あちこちから情報が入って混乱することを避け、リラックスしてケアを受けてもらうため。ケアを始める前に、「私の友達が手伝ってくれるので、安心してくださいね」と伝えておく。

  1. 感情の固定

ケアが終わったら、数分間、ケアを振り返って会話をし、心地よかった感情を記憶に残してもらう。「さっぱりして、ますますお綺麗になられましたね」「ご自分でたくさん体を動かしてくださったので、本当に助かりました」「お話できて楽しかったです」など、前向きな言葉を使う。

  1. 再会の約束

「また来ますね」と、握手をしてから別れる。次回来たときに好意的に受け止めてもらうことと、スタッフの充足感にもつながる。

ユマニチュードの実践のために

微笑み合う介護スタッフと利用者様

忙しい現場を限られたスタッフでなんとかまわしている介護施設では、ユマニチュードは絵に描いた餅だという人もいます。

たしかに、ケアの度にいちいち立ってもらったり、世間話をしていたら、ふだんより時間がかかるかもしれません。しかし実際には、ケアへの抵抗が少なくなることで業務の効率化につながったという声も多く聞かれます。

ユマニチュードの最も大きな効果は、認知症の人と丁寧に関わり合うことで人間らしい関係ができ、毎日の仕事が驚くほど楽しくなること。拒絶が多い方から肯定的な反応が返ってきたり、罵声の代わりに「ありがとう、あなたが来るのを待っていたわ」と言われることは、介護者にとってなによりのギフトになり、やる気につながることでしょう。

実践で大切なことは、表面の方法だけなぞるのではなく「どうやったらこの人と人間らしい絆を結べるだろうか」と考えながら、試行錯誤することです。認知症の人との関係作りに悩んでいたら、できることからぜひ取り入れてみてくださいね。

参考文献:
「ユマニチュード入門」イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ、本田美和子
「ユマニチュード 認知症ケア最前線」NHK取材班、望月健

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