EPA介護福祉士とは?介護現場での現状と課題

資格・スキル

学習する外国人介護士

介護現場の人手不足が問題になっている現在、日本の介護施設に就労する「EPA介護福祉士」が注目を集めています。これはフィリピン、ベトナム、インドネシアの3か国の候補者が日本語と介護知識・技術を学び、国家試験に合格して初めて取得できる資格です。
EPA(Economic Partnership Agreement)とは、国と国の経済連携をはかることで、経済取引の円滑化を目的としている経済連携協定。そのため、EPA介護福祉士にしても日本の人材不足解消のためにつくられた資格ではありません。

しかし、EPA介護福祉士を取得すれば外国人も日本の介護現場で働けるようになるため、これによる人手不足の解消が期待されているのも事実です。今回は外国人がEPA介護福祉士の資格を取得するまでの流れと受験者の合格状況についてご紹介します。

EPA介護福祉士とは?

フィリピン、ベトナム、インドネシアのいずれかの国籍を有する方が日本で働こうとした場合、次章で紹介するいくつかの条件を満たす必要があります。
条件を満たしている方はEPA介護福祉士候補者と呼ばれ、国家試験に合格すると晴れてEPA介護福祉士になれるのです。日本人の介護福祉士は介護知識と技術があれば合格できますが、アジア3か国のEPA介護福祉士はさらに日本語能力も求められるので、取得への道のりは決して簡単なものではありません。

EPA介護福祉士候補者になるためには

EPA介護福祉士候補者になれる条件は国によって異なります。それぞれの違いを見ていきましょう。

フィリピン・インドネシア国籍の方

フィリピンとインドネシアの方がEPA介護福祉士候補者になれる条件は同じで、下記5つと決められています。

  • それぞれの自国で候補者条件をクリアしている
  • 訪日前の6ヵ月間に日本語研修を受けている
  • 日本語能力試験N5程度以上を取得している
  • 訪日後に6ヵ月間の日本語研修を受けている
  • 病院や介護施設などの受け入れ施設で業務や研修を行っている

このうち日本語能力試験N3(日常会話レベル)またはN4(基礎的な挨拶や会話レベル)の取得者には訪日前の日本語研修が、N2(幅広い場面での日本語が理解できるレベル)以上の取得者には訪日前・後両方の日本語研修が免除されます。

ベトナム国籍の方

ベトナム国籍者がEPA介護福祉士候補者になれる条件は、下記の5つです。

  • 自国の候補者条件をクリアしている
  • 訪日前の12ヵ月間に日本語研修を受けている
  • 日本語能力試験N3以上を取得している
  • 訪日後に2.5ヵ月間の日本語研修を受けている
  • 病院や介護施設などの受け入れ施設で業務や研修を行っている

他の2国と比べると、より高い日本語能力が求められるのが特徴。なお、日本語能力試験N2以上の取得者であれば訪日前の日本語研修が免除されます。

介護福祉士の資格取得の流れ

介護福祉士登録証

EPA介護福祉士候補者になれた場合、日本の特別養護老人ホームや介護老人保健施設、デイサービスや養護老人ホームなどの受入れ施設で研修を受けてから、介護福祉士の国家試験を受験します。

国家試験は筆記試験と実技試験の2つで構成されていますが、筆記試験ではEPA介護福祉士候補者に2つの特例が適用されます。
ひとつは筆記試験の時間が通常の220分から1.5倍の330分に延長される点。そしてもうひとつは問題用紙内の難解漢字にふりがながふられたり、疾病名へ英語が併記されたりする点であり、異国の地で働く方への配慮が伺えます。筆記試験内容自体は同じであるため、介護福祉士とEPA介護福祉士で知識の差が出ることはないでしょう。

実技試験は与えられた課題を5分以内で実施する必要があり、課題の総得点の60%以上を獲得できれば合格です。この実技試験は介護福祉士養成施設が実施する介護技術講習会を受講すると免除されます。しかしこの講習会では1日あたり8時間×4日=合計32時間のカリキュラムをこなさなければならないため、ほとんどの人が実技試験を選択しているのが現状です。

EPA介護福祉士の合格率は50%前後

2019年度の介護福祉士国家試験の総受験者数は84,032人{※1}。このうちEPA介護福祉士候補者は758名で、内337名が合格しています。合格率こそ前年比-1.5%の44.5%にとどまりましたが、合格者数は過去最多を更新し、注目度の高まりを感じられます{※2}。

EPA介護福祉士候補者は原則4年間日本に滞在できます。つまり、年に一度実施される国家試験に4回チャレンジできるということ。ただし滞在最終年度に不合格になってしまった場合、1年だけ日本滞在を延長することができます。

介護福祉士国家試験全体の合格率が例年60~70%程度であることを考えると、EPA介護福祉士の合格率は決して高いとは言えません。介護の知識・技術とあわせて日本語能力も求められるので合格率が低いのは当然かもしれませんが、少しでも向上するように受け入れ施設でも丁寧でわかりやすい指導が求められます。

介護現場では外国人介護職員へのフォローが不可欠

リラックスして会話する様子の車いす男性と女性介護士

毎年厚生労働省が発表している介護福祉士試験の総受験者数を見ると、2014~2016年をピークにここ数年は減少傾向にあります。2019年の受験者数84,032人{※1}は、2014年の154,390人{※3}と比較すると約54%。受験者が大幅に減っていることで、今後はさらに介護現場の人手不足の深刻化が予想されます。

その一方で、EPA介護福祉士は順調に増加し2018年には初めて合格者が200名を突破。2019年には266名ものEPA介護福祉士が誕生しました{※4}。まだまだ絶対数は少ないですが、今後は介護現場におけるEPA介護福祉士の存在感が増していくでしょう。

現在のEPA介護福祉士の受け入れ体制に課題がないわけではありません。日本語能力が不十分であるために現場でうまくコミュニケーションが取れず、業務や人間関係に支障をきたす恐れもあります。文化の違いから、仕事の姿勢に違和感を覚えることもあるでしょう。

しかし、文化や言語の壁を乗り越えて活躍しているEPA介護福祉士は数多くいます。また、日本の介護福祉士養成校に留学し、介護福祉士を目指す外国人の数も年々増加しています。外国人介護職員の受け入れに積極的な事業者も増えているのです。

そしてより働きやすい環境をつくるために、住居や行政手続きの支援、文化・風習・信仰への配慮、メンタルヘルスケアなど、受け入れる側の介護施設の一層の努力が求められます。外国人に対する「安い労働力」という偏見を排除して、日本人が従事する場合と同等以上の報酬水準で迎え入れ、外国人介護職員の労働意欲にこたえていく。日本人と外国人が「人と人」として、ともに働ける環境づくりが大切でしょう。

{※1}第32回介護福祉士国家試験合格発表
https://www.gov-base.info/2020/03/25/84726
{※2}第32回介護福祉士国家試験の内訳・入国年度別候補者の累積合格率
https://www.mhlw.go.jp/content/12004000/000612619.pdf
{※3}第26回介護福祉士国家試験合格発表
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000041173.html
{※4}第31回介護福祉士国家試験におけるEPA介護福祉士候補者の試験結果
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000199604_00001.html

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