「スーパービジョン」とは、対人援助を行う人が、自分の担当しているケースについて第三者から助言をもらうこと。「SV」と略したり、日本語で「対人援助者監督指導」ということもあります。支援対象と自分の間で行き詰まっている問題を、第三者の視点から見てもらうことで解決の糸口を探すのが主な目的です。
介護におけるスーパービジョンは、支援が困難なケースを抱えたケアマネジャーや介護スタッフを励まして精神的な支えとなったり、スタッフ間の連携を深めることに役立ちます。また人材教育の一環として、さまざまな困難事例についてグループでスーパービジョンを行うこともあります。
日々利用者と向き合うことで悩みや葛藤を抱えがちな介護職員にとって、新たな気付きが得られ自身の成長を促してくれるのがスーパービジョンです。その詳しい内容や取り入れ方について一緒に見ていきましょう。
スーパービジョンの種類
スーパービジョンでアドバイスを送る側をスーパーバイザーといい、受け取る側をスーパーバイジーと言います。スーパービジョンはやり方によって5つの種類があります。
(1)個別スーパービジョン
スーパーバイザーとスーパーバイジーが1対1で行うので、個別の案件を検討するのに適している
(2)グループスーパービジョン
複数のスーパーバイザーと一人のスーパーバイジーで行う。研修としての活用もできる
(3)ピアスーパービジョン
上下関係のない同僚がスーパーバイザーとなり行う。お互いに教育効果が期待できる
(4)ライブスーパービジョン
現場にスーパーバイザーが同席してその場で実施したり、録音や録画を通して研修を行うもの
(5)セルフスーパービジョン
ケースを客観視することによって自分自身がスーパーバイザーとなって行うもの
(2)のグループスーパービジョンは、目的によってさらに2種類に分類できます。ひとつは研修的に活用するもので、スーパーバイザーが教材となるケースを提供し、複数のスーパーバイジーが参加して意見を出し合います。もうひとつは実践的な支援方法を探るために行うもので、アドバイスを求めるスーパーバイジーが現場実践ケースを提供し、それに複数のスーパーバイザーが参加して意見交換を行うというものです。
個別スーパービジョンの手順とメリット
- スーパーバイザーとなる人を決める。スーパーバイジーと信頼関係のある、経験豊富な人を選ぶ。
- スーパーバイジーは事前に、「どんな問題を抱えているのか」「どんなアドバイスが必要か」を明確にしておく。
- 面談を実施。スーパーバイザーはスーパーバイジーの不安を受け止めたうえで、異なる視点での代替案を提供したり、見逃している点を指摘したりする。スーパーバイジーはここでの気付きをもとに、今後何を実行に移していくかを決める。
- フォローアップとしてスーパーバイザーはスーパーバイジーの取組みを見守り、必要に応じて助言を行う。
個別スーパービジョンでは、スーパーバイザーがスーパーバイジーの成長を促す教育的な側面が大きくなります。定期的に行うことで、新人介護スタッフが孤独になることなく、先輩に見守られているという安心感のなかで成長していけるメリットがあります。
グループスーパービジョンの手順とメリット
- 今回検討するケースで知っておくべき情報を全員に配布する。
- 「利用者が目指しているゴール」「スーパーバイジーがこのスーパービジョンで必要としている助言は何か」を参加者に伝える。
- 「現状の問題点」「すでに取り組んだこと」を伝える。
- 参加者からの質問を受け付ける(10~20分程度)。
- ブレインストーミング(20~30分程度)。自由にアイデアを出してもらうため、出てきた考えに対する評価や否定はしない。
- 出てきた助言をふまえて、スーパーバイジーは次回までに何をするつもりかを伝える。
- フォローアップ報告で結果を分かち合う。
介護におけるグループスーパービジョンのメリットとして、問題を抱えている事例の詳細情報をスタッフみんなで共有できる点があります。同僚や部下がどんな問題を抱えているか知ったスタッフは、ふだんの仕事中にも「あ、これはあの件に応用できるかもしれない」と思いついたことを伝えたり、「今きっと困っている場面だから助けなくちゃ」とフォローに入るなど、できる範囲でサポート体制をとるようになるはず。
このようにスタッフ間の連携が深まれば、施設内の雰囲気も良くなり、スタッフ一人ひとりの負担をやわらげることにもつながります。
スーパービジョンを実施するときの注意点
●指示や評価よりも理解と共感を
スーパービジョンでは、「スーパーバイジーが自分自身で気づく」ことを重視します。そのためスーパーバイザーは、一方的に指示したり、良い悪いの評価を下すことがないように気をつけましょう。求められているのは、後輩や仲間の悩みに共感しながら適切なアドバイスを行い、不安をやわらげること。
とくにスーパーバイザーが先輩、スーパーバイジーが後輩という上下関係がある個別スーパービジョンにおいては、「なぜこんなこともできないの」といった非難、威圧的な態度は厳禁です。弱い立場であるスーパーバイジーが批判の矢面に立たされることのないよう、くれぐれも注意してください。
●事前に問題を整理しておく
アドバイスをもらう立場のスーパーバイジーにも注意すべき点があります。自分がどんなことに困っているのか、自分の欲しているものは何かを自ら整理して伝えなくてはなりませんし、さまざまなアイデアをもらったなかから、今後どうしていくのかは自分で考えて決めていく必要があります。
答えにたどり着くまで自分でじっくり考えなくてはならない分、気付きや発見が多く、着実に成長できる点がスーパービジョンの良いところ。またグループスーパービジョンやピアスーパービジョンなど、上下関係がないなかでのスーパービジョンでは、同僚の考え方に刺激を受けたり、新たな視点に気付かされたりすることも多いでしょう。
介護職の成長を促すスーパービジョン
スーパービジョンは、正解の分からない問題に、日々直面するスタッフにとって精神的な支えになるものです。「三人寄れば文殊の知恵」と言うように、一人では手に余るような問題も、仲間や先輩と分かち合えば良いアイデアが浮かぶことも。やってみて上手くいかなければ、また別の方法を試してみれば良いのです。
成功のカギは、スーパーバイザーがスーパーバイジーの話にていねいに耳を傾けられるかどうか。そのうえで「否定ではない建設的な意見」、「指示ではなく自分で考えるためのヒント」を出すことができれば、お互いにとって大きな成長の糧となるはずです。ぜひ前向きに取り組んでみてくださいね。