介護の仕事をしているなら、施設のご利用者様とはできるだけ良好な関係を築いておきたいものですね。でもお互い人間同士、感情や体調にも起伏があり、なかなか常にうまくいくというわけにはいきません。
そんななか、特別なサービスをしているわけではないのに、なぜか利用者様に好かれる人がいます。そういう人はいったいどこが違うのでしょうか?今回は、利用者様に好かれる人の特徴について現役介護職の方にヒアリングを行いました。
今回お話をお聞きしたのは、静岡県焼津市の特別養護老人ホームで働く介護実務経験16年の女性スタッフの方。その答えから、意外なことが分かってきました。利用者様との関係づくりに悩んでいる方も、そうでない方も、ぜひ参考にしてみてくださいね。
利用者様に頼られるとやる気につながる
Q.利用者様とよい関係が築けていると、仕事にもよい影響があると感じますか?
A.はい。利用者様に頼りにされたりすると、やはりやる気につながります。私の場合、入浴介助のときに「あなたにお風呂に入れてもらいたい」と言っていただいたり、朝の着替えのときに「あなたに服を選んでもらいたいの」と言っていただくことがありました。信頼していただけていることが感じられてとても嬉しく、また仕事をがんばろうという気持ちにもなりました。
Q.利用者様とよい関係が作れるように、日頃から心がけていることや、取り組まれていることはありますか?
A.できるだけ、いつも笑顔を絶やさないことを心がけています。柔らかい表情でいるほうが、利用者様に話しかけていただきやすいからです。あとは利用者様の訴えやサインを見逃さないよう、少しの表情の変化にも気づけるように、常にアンテナを張っています。
好かれる人の特徴とは?
Q.介護職をしていて、どんなスタッフが利用者様から好かれやすいと感じますか?
A.利用者様のお話をしっかりと聞きながら、否定せずに話を進めていける方や、威圧感がなく柔らかい雰囲気の方が好かれるのではないでしょうか。また、元気いっぱいで笑顔の多い方は孫のように思っていただけるようで、好かれることが多い気がします。
現在私が勤めている施設でも、「この方はたくさんの利用者様から好かれているなあ」と感じる方は何人かいらっしゃいます。その方は常に穏やかで口調にも品があるところが好かれる理由なのかなと思います。忙しい業務のなか、常に穏やかでいられるのはすごいと思いますし、私も見習っていきたいです。
好かれることと信頼されることは、似ているようで別のこと
Q.お話をうかがっていると、利用者様と良い関係を築いていくためには、笑顔や柔和な雰囲気、穏やかな話し方などが役立つようですね?
A.そうですね。ただ、それだけではない部分もあると思います。以前利用者様から「あの職員さんは話をよく聞いてくれるから好きだけど、力がないところが不安。だからベッドへの移乗は違う職員さんにお願いしたい」という要望を聞いたことがあります。
それを聞いて「そのスタッフが人間的に好き」という気持ちと、「信頼できる」という気持ちは、そのまま直結するわけではないことに気がつきました。介護において一番大切なことは、どの介助においても利用者様に不安を与えず確実に行えること。人間的にも好かれるということはそのうえでのプラスアルファになるので、実はとても大変なことなのではないでしょうか。
Q.なるほど、ありがとうございます。最後に、利用者様と介護スタッフの理想的な関係とはどんなものだと思われますか?
A.一番良い関係性というのは、利用者様の状況によって変わってくると思います。なのでこうと決めつけるのではなく、常に一人ひとりしっかりと向き合って模索していくことが大切なのではないでしょうか。「この人ならどんなことも任せられる」と信頼していただけるように、全力を尽くしていきたいです。
信頼関係の先に「好き」がある
利用者様に好かれるスタッフの特徴として、「笑顔で接する」「お話をよく聞く」「穏やかに丁寧に話す」といったキーワードが出てきました。どれも介護職として初めに習う基本的なことで、これさえすれば利用者様に好かれるなどという特別なスキルは出てきませんでした。
それと同時に、利用者様のことを思いながら安心してもらえるケアを確実に提供していれば、おのずと信頼を得られ、その延長線上で人間的に好かれることがあるということが分かりました。安心してケアを任せてくれる、困ったときに頼ってくれる、本当の気持ちを打ち明けてくれる・・・利用者様とそんな関係になるために肝心なのは、どうも「好かれる・嫌われる」といった一時的な感情だけではないようです。
逆に、日々の仕事ぶりが信頼関係を作ることを忘れて「あの利用者様に嫌われてしまったみたい、私の何が悪かったのだろう」とくよくよ気にしたり、「私はこの方に好かれているから」などと好き・嫌いにとらわれていると、いつか大きな失敗につながってしまうかも。もしそんな狭い考え方になっているなら、少し肩の力を抜いてリラックスし、基本に立ち返ってみるとよいかもしれません。
こちらのコラムも参考に≫「接遇マナーを身につければ、介護の仕事が楽しくなる」
心を込めた仕事で自分に自信を
介護職としての成長に、「利用者様から好かれること」は必ずしも重要なことではありません。
大切なのは、「いつも誠実な仕事をする、信頼できる人」と思ってもらうこと。むしろ好かれようとして変にムリをしたり、余計なことを言ったりすると、逆にその気持ちを見透かされてしまうことも・・・。
無口な利用者様は、あなたのことを信頼しているから黙っているだけかもしれません。ですから毎回おしゃべりが弾まなくても気にすることはありません。それよりも、利用者様一人ひとりのことを考え、できるケアを着実に行うことに集中するのが得策なのではないでしょうか。
心をこめて仕事をしていれば、その仕事ぶりを認めてくれる人は必ずいます。もし特定の利用者様から嫌われているように感じたとしても、人間同士のことなので相性もありますし、好き・嫌いという感情は移ろいやすいものでもあります。あまり気にしすぎず、自分に自信を持ってお仕事に取り組んでいきたいですね。