「毎日が大家族の家庭みたいです。予想外のことも起こりますが、うれしい発見も多いですよ」と話すスタッフがいます。
グループホームは住宅のような環境で、認知症の高齢者と、その子ども世代から、孫よりも若いスタッフも365日いっしょに過ごすところ。
グループホームでは、認知症の高齢者5人から9人で共同生活をします。スタッフ3人で利用者の生活作業をサポートしながら、一人ひとりにじっくりかかわって「その人にできること」を引き出し、認知症の症状を和らげていきます。
認知症ケアって私でもできるのかな、と考えている人に、グループホームの仕事の内容や特色、あるとよい能力や資格などをわかりやすくご紹介します。
グループホームは認知症の高齢者の入居型介護施設
できるだけ家庭に近い環境で、認知症の症状の進行を防ぐケアをする施設がグループホーム。
場所や時間、人などの記憶をとどめることが難しい認知症の患者さんが、環境の大きな変化で混乱して症状が悪化しないように配慮されています。1階建てや2階建ての住宅に近い建物で、食事などを共同で行い、それぞれの個室で寝起きします。
利用者は、65歳以上で認知症と診断された人で、要支援2から要介護5までが対象。要介護度や症状に応じた個別のケアプランに従ってサポートします。
入居者数は最大で18人。1~2つのユニットに5~9人が定員と介護保険法で定められています。1ユニットをスタッフ3人で、夜勤は1人で担当します。
勤務体制はシフト制。施設によって勤務時間の区分が異なりますが、決まった時間帯だけの勤務が可能な場合もあります。
認知症の人は、体は動かせる人がほとんど。スタッフは、利用者の生活作業を介助しながら、可能な限り「できる力」を活かし、引き出していくサポートをします。
グループホームの1日の仕事
グループホームでの仕事は、毎日の生活のなかで心身両面から「その人らしさ」を取り戻すお手伝いをすることです。
身体の面からは、きちんとした生活リズムを取り戻し、体を動かして心地よい睡眠をとれるように。心の面からも、生活を通じて「自分にはこんなことができる」という自信を持ってもらえるようにします。
●1日の仕事の例
・7:00~ 利用者起床、 朝食準備・朝食・片付け
着替え・洗面・排泄の介助と朝食の準備は、必要な範囲でサポート。食事の前後に体調チェックと口腔ケアを行います。
・9:00~ 掃除・洗濯、レクリエーション
掃除や洗濯もリハビリです。そのあとの時間は、マシンやボールを使って体を動かしたり、脳を活性化させるゲームやカラオケなどのレクリエーションを楽しみます。
・11:00~ 昼食準備・昼食・片付け
・13:00~ 入浴、おやつ作り・散歩・買い物など
順番に入浴している間の空いた時間に散歩や買い物、おやつ作りなどをサポート。
・15:00~ おやつ・洗濯物の片付け・体操
利用者みんなそろってのおやつタイム。おしゃべりを楽しんだら、洗濯物の取り込みと整理をサポートします。立つ、座る、歩くなどの日常動作のための体操なども。
・16:00~ 夕食準備・夕食・片付け
ゆっくり作って、ゆっくり食事を楽しみます。3食とも、食事の量を記録します。
・19:00~ フリータイム
眠気を感じた人にはベッドに入ってもらいます。寝付きの悪いときにはいっしょにテレビを見たり、おしゃべりをしたりして、就寝まで見守ります。
・21:00~ 消灯・就寝介助、夜間の見守り・排泄介助など
着替えや洗面の介助をして、就寝を促します。1日の水分摂取量や排泄の回数なども記録し、排泄の間隔があいていたら声かけを。就寝を確認し、夜勤のスタッフが巡回、見守りや介助をします。
これは、標準的なタイムテーブルです。グループホームによって工夫をこらしたスケジュールや行事を開催されていますので、問い合わせてみることをおすすめします。
グループホームでの仕事の特色
認知症の人への接し方
認知症の人は、自分が壊れていくような感覚を持ち、不安や苛立ちを感じているといいます。表情が乏しく、話しかけても反応がないこともあり、一般の高齢者とは違う接し方が必要。
基本は、目の前のその人を受け止める。ゆっくり話しかけ、じっくり話を聞く、相手の言うことを否定しないなど、利用者のプライドを傷つけない配慮をします。
認知症の症状は人によってさまざま。外へ1人で出てしまう「徘徊(はいかい)」や、自分のものがない、盗まれた、と思い込む「もの盗られ妄想」などがあります。それぞれに対応法をあらかじめ知っておくことも役立ちますし、先輩スタッフから学んでいくこともできます。
生涯発達という考え方
介護の教科書に「人は生涯にわたって発達を続ける」という言葉があります。毎日の生活のなかで心と体の両面からケアしていくと、認知症の人からも元気や力は引き出せるのです。
ふだんは記憶がほとんどつながらない利用者が、散歩に行った翌日にその場所について話しかけてきてくれたり、最初は「あなた誰?」と何度も聞いていた利用者から「もう帰るの?」といわれたり、ほとんどしゃべらない人が「ありがとう」と言ってくれたり。
毎日、決まったメンバーでいっしょに過ごしていると、利用者の小さな変化にも気づきやすいのがグループホーム。いいことがあればいっしょに喜び、何か問題が出ればすぐに対応できるのが、少人数の施設のメリットといえるでしょう。
グループホームで働くときに役に立つ能力や資格
掃除や洗濯、食事作りは、利用者と毎日いっしょ。楽しく過ごしてもらうためには、人の話を聞いたり、気軽に話しかけたりできるコミュニケーション力が必要です。
また、認知症の症状には「覚えていない」「乱暴なことをいう」などもありますから、感情的にならず、あまりくよくよ気にしない性格の方が適しています。
介護福祉士の資格があれば給与面での優遇がありますし、介護初任者研修修了を応募条件にしているところも多いので、介護関係の資格がある方がよいでしょう。
パートとしてなら無資格でも勤務できる施設もありますし、勤務しながら介護初任者研修の資格を取り、正職員を目指すこともできます。
認知症ケアに的を絞って基本的なスキルを身につけるなら、「認知症ライフパートナー検定」もおすすめ。
2級、3級は誰でも受験できます。試験問題は公式テキストの内容のなかからの出題ですから、比較的簡単に取得でき、2・3級を同時に受験することもできます。
さらに専門知識を深めたい人には1級の受験も。2級合格者なら受験できます。
この検定は民間資格で国家資格ではないため、給与アップに直結するわけではありません。しかし、さまざまな認知症の症状と対応方法を知っていると、自信の裏付けになり心にゆとりをもって働くことができるでしょう。
じっくりゆっくり、利用者の気持ちを受け止めていこう
グループホームは家庭的な環境ではありますが、スタッフはもちろん家族ではありません。この自覚があると「いちばん利用者のためになること」を最優先で考えるようになります。
ひとつ屋根の下にいれば、利用者同士でちょっともめたり、機嫌が悪くてスタッフにあたったりすることもあります。そんなときも冷静に「どうすれば○○さんのためになるか」を考えながら、「なにがあったの」「本当はどうしたかったの」と話を聞いたり、黙ってそばに寄り添って、利用者の気持ちや状況を受け止めたりすることが大切。
利用者を理解したいという気持ちや、ちゃんと見守っていることはいつか伝わります。すると少しずつ、利用者から話しかけ、笑顔を見せてくれることが増えていきます。認知症の人は本音と建て前の使い分けはしませんから、その笑顔はまちがいなくスタッフへの信頼の証。それが何よりうれしく、また明日もがんばろうと背中を押してくれる力になります。
それぞれのペースに合わせ、じっくりゆっくり信頼関係を育てていくグループホームのお仕事。あなたが描く介護の仕事のイメージに近いかも、と感じたら、一歩前に踏み出してみませんか。