業務効率化の切り札として、各分野で熱い注目を浴びる人工知能=AI(Artificial Intelligence)。あらかじめプログラミングされたことしかできない通常のコンピューターと違い、膨大なデータから学習したことをもとに、状況に応じた判断や対応ができるのがAIの特徴です。
人材不足に悩む介護業界においても、AIを活用したサービスや製品がたくさん開発されています。今回のコラムでは、AIの特徴や得意なこと、介護業務で得られるメリットや実用化されている製品等についてご紹介していきます。AIで介護業務がどう変わるのか、本当に効率化になるのか知りたいという方は、ぜひ最後までチェックしてくださいね。
AIとは?ICTや介護ロボットとの違い
介護で役立つテクノロジーというと、AIのほかにもICTや介護ロボットなど、いくつかの言葉が思い浮かびます。AIはこれらの他のテクノロジーと何がどう違うのでしょうか。
AI(人工知能)に明確な定義はないのですが、「人間の脳と同じような知的活動ができるコンピューターシステム」と考えると分かりやすいです。プログラミングされたことしかできない一般的なコンピューターとは違い、データや経験から学習して賢くなっていったり、状況に合わせて自分で判断をするなどの特徴を持っています。
AIは人間と違って24時間疲れることなく稼働でき、膨大な量のデータを学習することや、画像や音声、映像の解析が得意。また過去の事例や数値をもとに、推論したり未来を予測することにも長けています。
ベテランのケアマネジャーや介護職員でなければ経験がないようなレアなケースも、データとして学習していれば判断に役立てることができます。こうした特性を活かし、ケアプラン作成支援システムや見守りシステムなど、多くの介護支援サービスに取り入れられています。
一方ICTはデジタル化された情報をやりとりする通信技術のことで、介護記録や請求業務などを一元化したり、職員間で利用者様情報を共有したりするのに便利。現場で働く介護職員なら、タブレットやインカムなどを使って行う業務を思い浮かべると分かりやすいのではないでしょうか。
介護ロボットはセンサー等で周囲の状況を感知・動作する機械システムのことで、高齢者の歩行をアシストするカートや、介護者が身につけるスーツ型などが代表的。どちらもAIが搭載されていることもありますし、搭載されていないこともあります。
AIで業務の効率アップ
見守りの精度アップによる効率化
見守りシステムに欠かせない存在ともいえるカメラですが、AIが搭載されているタイプでは、学習した膨大な量の画像データをもとに人物の骨格や転倒につながる動きを高い精度で画像認識してくれます。
これにより「お辞儀」や「ものを拾う動作」などの転倒と間違えやすい動きには反応せず、転倒やベッドからのずり落ちなどの危険な動きはしっかり反応できるように。
対応が必要なときだけ高い精度で職員に知らせてくれるため、むだな訪室を確実に減らすことができます。とくに夜間はスタッフの数が減るため、職員の大幅な負担軽減につながっています。
転倒検知システム「ミライアイ」
AI見守りシステム「pakemo」
また、見守りで得た利用者様の行動データをAIが解析することによって、認知機能の変化を把握できるシステムも開発されています。認知機能の低下を早期に発見し、適切なケアを行うことで認知症の発症や進行を遅らせることが期待されています。
送迎業務の最適化
デイサービスなど送迎をともなう介護施設では、毎日の送迎ルートを考えることも大きな負担。日によって異なる利用者様を、それぞれ自宅の位置関係やお迎えの時間、交通事情や利用者様同士の相性などを考慮しながらルート設定を行うのは難易度の高い業務です。業務に時間がかかる、経験の浅いスタッフでは対処できないなどの問題がありました。
そこで活躍するのが、AIを活用した送迎支援システムです。車両や運転手、利用者様の住所や注意事項などを入力すれば、最適な送迎ルートをAIが提案。スタッフはそれを確認し、必要があれば修正するだけでOK。導入している施設も多く、実績のある分野です。
送迎支援サービス「ドライブボス」
福祉車両送迎支援「DAYMAP」
AIでケアマネ支援
ケアプラン作成をサポート
登録された情報をもとにAIがケアプラン作成を支援してくれる介護ソフトが実用化されています。膨大な過去のデータや病気の知識などを学習したAIの提案は、経験の浅いケアマネジャーはもちろん、ベテランケアマネジャーにとっても参考になり、業務時間の短縮にも。
ケアプラン作成支援AI「ミルモぷらん」
ケアマネジメント支援サービス(AIケアプラン)「SOIN(そわん)」
モニタリングを効率化
ケアマネジャーの大切な仕事の一環として、利用者様の生活や健康状態の変化を継続的に確認していく「モニタリング」という業務があります。ただ定期的に利用者様の自宅を訪問して面談する必要があり、情報の記録や分析にも時間がかかるため、ケアマネジャーの業務負担は大きいものとなっています。
現在実用化に向け準備が進められている下記システムでは、かわいらしいぬいぐるみやコミュニケーションロボットにAIを搭載し、高齢者はそれらとおしゃべりを楽しむ感覚で使用可能。
ケアマネジャーは会話の結果を確認するだけで高齢者の状況を把握できます。実証ではケアマネジャーの面談と記録にかかる時間を約7割も削減できたとのことで、実用化への期待が高まっています。
高齢者向け対話AIシステム「MICSUS(ミクサス)」
AIで介護予防
将来要介護になるリスクの高い人を抽出
自治体向けではありますが、住民の年齢や同居人の有無、過去の介護サービス受給履歴などの膨大なデータを学習したAIが、将来の介護リスクをグラフ形式で可視化してくれるシステムが開発されています。これによりリスクの高い人達に、より早く的確に介護予防事業を届けられるようになります。
説明可能なAIを活用した介護予防ソフトウェアの販売を開始(富士通japan)
AIを搭載した介護支援ロボット
アーム付きでボタンを押したり物を運んだりできる、AI搭載の介護ロボットが開発されています。センサーでさまざまな人や物を認識し、姿勢も検知可能なので、人が倒れていれば発見して職員へ知らせることができます。
自走式でエレベーターに乗ったり、スライドドアの開閉もできるので、夜間に施設内の巡回をさせることも可能。一人前の介護職員とまではいきませんが、人間のスタッフを補助して活躍してくれます。
コミュニケーションロボットも、AI搭載でよりスムーズに会話を楽しめるものが続々と登場しています。自律型会話ロボットRomi(ロミィ)は最新の会話AIを搭載しており、どんな話題でも相手に合わせ自然に楽しくやりとりが可能。液晶で表示されるかわいい表情もポイントで、「話し相手がいない」「寂しい」といった悩みを解決してくれます。
また認知症コミュニケーションロボット「だいちゃん」は、独自開発のAIが会話のテンポなどから相手の集中度を判断。相手の興味に合わせたコミュニケーションで、認知症の方を楽しませてくれます。
会話AIロボット「Romi(ロミィ)」
認知症コミュニケーションロボット「だいちゃん」
AIが得意なことは任せよう
AIはゼロから何かを創作することはできませんし、曖昧なニュアンスを理解したり空気を読むといった合理的でない判断も苦手です。それでも休まず働けるなど人間がマネのできない利点も多く、大量のデータ解析などAIのほうが得意な分野はたくさんあります。
そこを利用すれば介護スタッフの業務負担を大きく軽減でき、より創造的な仕事に時間を割けるようになるはず。テクノロジーの導入には初期投資がかかる点がデメリットではありますが、それを差し引いてもメリットのほうが上回ると考えられます。
導入成功のポイントは、自施設の悩みを分析し、それにフィットした製品を選ぶこと。最近は費用を抑えた製品も増えてきていますので、人手不足にお悩みであればぜひ前向きに検討してみてくださいね。