「腰を少しでも曲げるとかなり痛みを感じて、日常生活にも支障が出ている」
「無理をすれば仕事を続けていけるかもしれないが、先を考えると不安…」
「しばらく仕事を休んで腰を治したいけれど、診断書などが必要なのかな?」
そんな風に、腰痛の痛みをがまんしながら介護業務を続けていませんか?
この記事では、介護職が腰痛になったときの対処法や悪化を防ぐポイント、腰痛持ちでも働きやすい職場をご紹介します。
辛い思いを我慢せず、ぜひ早く対応して、悪化しないように対策をしてくださいね。
介護職が腰痛になったときの対処法4つ
介護職が腰痛になったときの対処法を4つご紹介します。
◆このような症状のときは受診する
『腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)』によると、腰痛と一緒に以下のような症状がある場合は、腫瘍・感染・骨折の可能性が疑われるとされています。
- 時間や活動性(動作)に関係なく、じっとしていても痛みを感じる
- 腰だけでなく、胸や背中にも痛みがある
- 体重が減ってきている
- 腰の痛みに加え、広範囲にしびれや麻痺(まひ)がある
これらの症状がひとつでも当てはまるようでしたら、できるだけ早い受診をおすすめします。
参考図書:『腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)』p.23」
◆医療用の腰痛ベルトなどを使用する
受診した整形外科などで、自分に合う腰痛ベルトなどを処方してもらって使用するのもおすすめです。
腰痛ベルトは背骨や腰を支える効果があるため、ある程度は楽になりますが、長期間使い続けると自分の筋力が弱くなってしまう場合も。
1日の使用時間や期間なども医者と相談しながら、使用するとよいでしょう。
◆業務内容の調整を依頼する
腰痛がひどくて業務に支障が出る場合は、上司に申し出て業務内容の調整を依頼しましょう。
人手不足のなか言い出しにくい面があるかもしれませんが、無理をして今の仕事を続けることで腰痛が悪化する恐れがあります。
たとえば、ご利用者様を持ち上げるときは他の職員と一緒におこなう、装置を利用するなど、負担を減らすだけでも腰痛悪化を防げます。
腰痛はいつ誰がなってもおかしくありません。勇気を出して伝えてみましょう。
◆労災に申請する
介護職が腰痛になった場合、介護業務が腰痛の原因であることを証明できれば、労働災害(労災)として認定されます。
労災申請を視野に入れている場合は、労災指定病院に行くのがおすすめです。
治療費は、請求手続き後に労災保険から医療機関へ直接支払われるため、治療費の支払いは必要ありません。
労災補償の請求手続きが比較的簡単におこなえることもメリットです。
厚生労働省のサイトで、自宅や職場から最寄りの労災保険指定医療機関を検索できます。
参考:「腰痛の労災認定」(2022年8月8日)厚生労働省
参考:労災保険指定医療機関検索 厚生労働省
腰痛を予防し悪化させないために気をつけるポイント3つ
腰痛になってしまうと、介護業務だけでなく、自分自身の生活にも影響が出てきます。
日頃から腰痛を予防するような対策をし、悪化させないような姿勢や動き方を心がけるようにしましょう。
腰痛を予防し悪化させないために気をつけるポイントは、以下の3つです。
- 介護をするための体づくりをする
- ボディメカニクスの技術を身につける
- 福祉用具や福祉機器を上手に活用する
以下、ひとつずつ解説します。
◆ポイント1.介護をするための体づくりをする
「研修や本で学んだとおりにしてみたのに、うまくできない」
「教えてもらった手順で介護しているけれど、肩や腰への負担がきつい」
などと悩んでいませんか?
まずは、介護をするための体づくりをしておかないと、力の入れ具合や重心の落とし方などがうまくできず、せっかく学んだ技術を生かせません。
介護技術の土台ともいえる体づくりをするためには、ストレッチやエクササイズに加えて、日頃から以下の2つを意識しましょう。
- 1.全身の連動性を高める
介護の際に手先や腕だけを使っていると、肘・肩を痛める原因になります。
また、腰やひざに大きな負担がかかり続けると、腰痛や膝痛になってしまうことも。
これまで体の一部分に負担が集中していた場合は、全身を使って支えたり抱えたりするように意識を変えてみましょう。
たとえば、赤ちゃんを抱っこするときも、腕だけで抱っこしようとすると、手首や肩、腰に力が入ってしまい痛める原因に。
胸やおなかも使い、赤ちゃんの体を支えながら手も添えるようにすると、抱っこする側も楽ですし、安定感があるので、赤ちゃんも安心できます。
同じく介護も、腕だけ・腰だけでなく、全身を使ってご利用者様をサポートするようにしましょう。
- 2.動きを予想する
介護職自身が生活上の基本的な動きを正確に知っておくことで、スムーズなサポートができるようになります。
「寝返りをする」「起き上がる」「座る」「立つ」など、体のどこから動かせばスムーズか、どの部分をどの角度にすると立ち上がりやすいか、といった点に注意しながら、自分でも動いてみましょう。
たとえば、立ち上がるときは足を後ろに下げて、体を前傾させることでスムーズに立ち上がれます。
ご利用者様が立つときも、その動きを意識して体を動かすようにすると、余分な力が必要なく、安定感のある動きができるでしょう。
ご利用者様が次の動きで使う筋肉や動作が予想できると、介護をする側・される側の両方にとって、負担の少ないサポートができます。
※腰痛予防のストレッチやエクササイズの参考に
「介護業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」中央労働災害防止協会(p.38)
◆ポイント2.ボディメカニクスの技術を身につける
ボディメカニクスとは、最小限の力で身体介助が可能になる技術のことです。人間が動くときの骨や筋肉、関節の相互作用関係を活用してサポートをおこないます。
適切に体を使い、正しくボディメカニクスをおこなうと、介助される側の身体的特性が生かされて、体にかかる負担を少なくできます。
ボディメカニクスを活用するための8つの原則は以下の通りです。
- 安定感のある姿勢で、指示基底面積を広くとる
- 介助時は重心を低くする
- 水平方向での重心移動を活用する
- ご利用者様と重心を近づける
- 体幹部をねじらず、骨盤と肩を平行にし背筋を伸ばす
- ご利用者様の手足を曲げてもらい体を小さくまとめる
- 一度に動かそうとせず、動作を数回に分ける
- 介護職の肘やひざを使い、てこの原理を活用する
書籍『こだわりのポイントはココ! からだを正しく使った移動・移乗技術』で、介助を実際におこなう動画が紹介されていますので、興味のある方はチェックしてみてくださいね。
参考図書:『こだわりのポイントはココ! からだを正しく使った移動・移乗技術』
◆ポイント3.福祉用具や福祉機器を上手に活用する
平成25年に改訂された、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針及び解説」の指針では、
“腰部に負担のかかる重量物を取り扱う作業、人を抱え上げる作業、不自然な姿勢を伴う作業では、作業の全部又は一部を自動化することが望ましい。それが困難な場合には、負担を減らす台車等の適切な補助機器や道具、介護・看護等においては福祉用具を導入するなどの省力化を行い、労働者の腰部への負担を軽減すること。“
と明記されています。
以下のような福祉用具や福祉機器もうまく活用することで、介護者の負担を減らせるので、上手に活用していきましょう。
引用:「介護業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」中央労働災害防止協会(p.12 図4-1-1)
- リフト
- 吊り具(スリング)シート
- スタンディングマシーン
- 持ち手付き補助ベルト
- スライディングボード
- スライディングシート
訪問介護をする際は、福祉用具や機器がない場合もありますので、ご利用者様の自宅環境に合わせて選ぶとよいでしょう。
参考:ノーリフティングケアとは(一般社団法人 ノーリフティング協会)
腰痛持ちの介護職におすすめの職場
腰痛で困っている方は、厚生労働省の「介護作業者の腰痛予防対策チェックリスト」をチェックしてみて、姿勢など改善できることがあれば取り入れてみてはいかがでしょうか。
現在働いている施設に福祉用具や機器が充実していない場合や、慢性的な人員不足などで、腰痛対策の改善が期待できそうにない場合は、資格を取って腰への負担が少ない職種を目指す、他の施設に転職する、という道もあります。
以下、腰痛があっても比較的働きやすい職種や職場をご紹介します。
◆腰に負担が少ない職種を選ぶ
ケアマネジャーや生活相談員など、実務が比較的少ない職種になって続けていくのもひとつの方法です。
ほかに、管理者やサービス提供責任者になるとマネジメント業務が中心になり、現場の仕事が少なくなります。
現在、資格を持っていない場合は、腰痛の悪化に気をつけながら介護職を続けつつ、資格取得を目指してはいかがでしょうか。
ケアマネジャーになるには、介護支援専門員の資格取得が必要、生活相談員になるには「社会福祉士」「精神保健福祉士」「社会福祉主事任用資格」のいずれかの資格が必要です。
◆自立して生活できるご利用者様が多い施設を選ぶ
腰痛で悩んでいる介護職には、ケアハウスやサービス付き高齢者向け住宅など、介護度の低い施設がおすすめです。
ケアハウスやサービス付き高齢者向け住宅であれば、身体的には自立度が高いご利用者様が多いので、家事や見守り、声かけなどの仕事が主になるため、入浴介助や移乗介助の機会は少なくなるでしょう。
◆腰痛対策に力を入れている施設を選ぶ
近年、介護業務をサポートするための介護ロボットが開発・販売されています。
介護者の負担軽減と腰痛予防のために、介護ロボットや、現場に適した福祉用具・機器を積極的に導入している施設もありますので、施設情報や施設訪問で確認してみましょう。
参考「看護・介護作業による腰痛を予防しましょう」(厚生労働省)
辛い腰痛は我慢せず早めの対策を
介護職は、日常的に腰に負担がかかりやすい仕事です。
今、腰痛で辛い思いをしている人は、症状によってはすぐに受診し、悪化させないように工夫しつつ、職種を変わることも考えてみてはいかがでしょうか。
とはいえ、腰痛はすぐには根治しません。
どうしても痛みが辛いようであれば、腰に負担がかかりにくい職場に転職するのもおすすめです。
「かいごGarden」では、キャリア・コーディネーターが多くの介護施設を実際に訪問して特徴を把握し、腰痛を抱えていても働きやすい職場を一緒に考えてベストな選択肢をご提案します。
介護の世界で転職を考えている方は、ぜひご相談ください。