日本版ラヒホイタヤで介護人材は増える?メリットと課題

LIFE

福祉
「ラヒホイタヤ」は、福祉大国フィンランドで独自に運用されている資格制度。医療福祉の分野にまたがる基礎資格となっており、これを保有していれば介護・保育・看護の分野で幅広く活躍することができます。高齢者に限らず子供や障がい者など、ケアを必要とするすべての人に寄り添うための資格です。

ひとつの資格でいくつもの分野の仕事ができるようになるラヒホイタヤは、介護人材の不足が深刻化する日本でも注目を集めています。今回はラヒホイタヤの詳しい内容に加え、日本での採用を考えたときの課題やメリット・デメリット、今後の展望についてまとめていきましょう。

ラヒホイタヤとは

高齢化社会のイメージ
「ラヒホイタヤ=社会・保健医療基礎資格」は1993年に、北欧フィンランドで独自に運用が開始された資格制度です。フィンランド語で「lahi」は「身近な」、「hoitaja」は「世話をする人」で、合わせて「日常的なケアをする人」という意味。日本と同様に速いスピードで少子高齢化が進んでいるフィンランドで、将来的に予想される人材不足への対策として考えられました。ラヒホイタヤには以下の10の資格が統合されています。

・准看護師
・精神障害看護助手
・歯科助手
・保母/保育士
・ペディケア士
・リハビリ助手
・救急救命士・救急運転手
・知的障害福祉士
・ホームヘルパー
・日中保育士

発案された当初は看護業界から強い反発があったものの、十分に議論を重ね、意見を取り入れたことで最終的に合意を得ることができました。

ラヒホイタヤを取得するには、中学卒業後に3年間専門学校に通う方法と、社会人の場合は養成校で2年間教育を受ける方法があり、いずれも学費は無料。2年教育の場合は1年目で保育・看護・介護・リハビリなど幅広い内容を学び、2年目に各専門分野へと進みます。

たとえば保育の分野を専門的に学んだら、保育施設に就職することが一般的ですが、自分に合わないと思ったら気軽に転職することも可能。転職の際には、必要になる専門分野の講座を、働きながら追加で受講する人が多いということです。

幅広い分野で資格を活かしながら、柔軟に働くことができるラヒホイタヤ。フィンランドでは求人件数が多く、年齢や国籍によって待遇が変わることがない点も、この資格を取得する魅力となっているようです。

こちらのコラムも参考に
≫フィンランドの介護が抱える課題と変化。日本との違いは?

ラヒホイタヤのメリット

ラヒホイタヤを導入するメリットは、福祉関連の専門職種間で人材の移動が容易になること。「この専門資格はこの業種」と決まっていると働く場が限定されるため、ライフスタイルの変化や住居の移動などにより福祉の仕事を続けられなくなることがあります。また雇う側も「この資格がない人は雇えない」となると、一定の応募数を集めることが難しくなります。

その点ラヒホイタヤ制度では、働く場の幅が広がることによって離職者の減少や応募者の増加が見込めます。さらに昼間は保育士、夜は介護職などという柔軟な働き方もできるようになり、限られたマンパワーを合理的に活用することが可能になります。

また、専門職の裾野が広がるという点も大きなメリット。最初は自分の専門を決めずにラヒホイタヤを取得し、自分に合う仕事を見きわめてから専門性を高めていけるので、それぞれの専門職でも幅広い人材集めにつながるというわけです。

そのほか、一人の担当者が医療・介護の垣根なくケアを行えるようになるため、多くの専門職が入れ替わり立ち替わりケアを行うことがなくなるというメリットもあります。在宅ケアはもちろん、施設ケアであっても、たくさんの人が頻繁に自宅や自分の居室を出入りするのは落ち着かないもの。自分をよく知る担当者とじっくり関係を築くことができ、安心してケアを受けられるのは魅力です。

日本での導入に向け、進む議論と抱える課題

フィンランドと日本は、どちらも速いスピードで少子高齢化が進んでいる点が似ています。ラヒホイタヤ制度はそこでの成功例として日本でも注目され、導入についての議論が始まっています。2015年には厚生労働省がプロジェクトチームを立ち上げ、福祉・医療に関連する10の資格の統合を検討。福祉の現場関係者からのヒアリングを行いました。

その結果、准看護師との統合は断念されたものの、保育士と介護福祉士については双方の資格を取りやすくする方針が出されました。2018年からは、介護福祉士などが保育士資格を取る場合に試験科目が一部免除されるようになっています。また福祉分野の専門職に共通する基礎課程を設ける方針についても検討が続いています。

現場では人材不足解消のため早期に手を打って欲しいという強い要望がある一方、日本版ラヒホイタヤ創設に否定的な声もあります。多いのは「高齢者介護と乳幼児保育には異なる技術や知識が必要となるので、一本化には無理がある」「一人に多くの知識や高い能力が求められ、負担が大きい」「それぞれの専門性が薄れてしまう」といったもの。

また、フィンランドでは保健医療福祉も教育機関も主体は自治体だったために合意がとりやすかったのですが、日本の場合は、サービスの提供主体に民間、公的が入り交じり、関連団体も多岐にわたっています。それぞれに異なる背景・事情を抱えているために、ひとつの合意に至るには議論を尽くし、調整をおこなう必要があるという課題も抱えています。

日本版ラヒホイタヤに大きな期待

にこやかな様子の女性スタッフ
フィンランドでは成功しているラヒホイタヤですが、もちろん日本とは福祉のしくみや国民性などにおいて大きな違いがあるため、そのまま導入というわけにはいきません。上記で紹介した課題を乗り越えるためにも、日本の事情に合わせてカスタマイズすることが必須です。

現在も議論が続く日本版ラヒホイタヤでは、准看護師との統合は見送られましたが、保育と介護については共通する部分を探っていき、人材の有効活用につなげる動きがみられます。高齢者と乳幼児ではまったく違うケアスキルが求められるとはいえ、幼い子供と高齢者が互いに活かし助け合いながら生活する「幼老複合施設」は成功例も多く、未来の福祉の形として大きな可能性を示しています。

こちらのコラムも参考に
≫幼老複合施設は働きやすいの?メリット&デメリット

介護と保育、両分野で働き手が不足している現状を考えれば、日本版ラヒホイタヤには一定の期待が持てるのではないでしょうか。多くの課題も残っていますがじっくりと議論を重ねてそれを乗り越え、人材不足解消への一助となることを期待したいですね。

この記事をシェア

  • Twitter
  • facebook
  • LINE

週間人気ランキング

かいごGarden noteとは?

かいごGarden noteは、介護の求人サービス「かいごGarden」が運営する介護の情報サイトです。
介護のお役立ち情報や、介護の仕事のお悩み情報などを掲載しています。