介護の基本技術をお伝えする第2回目は、ストレスなくできる「着替えの介助」について。
身体に麻痺があったり関節に痛みがあったりすると、シャツ一枚を脱ぎ着するのさえ難しいもの。また認知症などの影響で、着替えをおっくうがったり、着るものにこだわりがあったりすると、さらに介助は難しくなります。
今回は簡単そうに見えて奥が深い「着替えの介助」をぐっと掘り下げ、お互いにストレスなくスムーズに着替えられる方法をお伝えしていきます!
基本スタンスは、「できることはしてもらう」
シャツのボタンがなかなか留められず、かなり時間がかかっている・・・そんな場面に遭遇すると、ついやってあげてしまいたくなりますね。
ところが介護の世界では、それはNG。ボタン留めなどの作業は難しそうに見えても手先のリハビリになっています。時間がかかるからといって何でもやってあげてしまうと、あっという間にできないことが増えてしまいます。
介護者は手を出すのではなく見守るにとどめ、危険だと思われるときやストレスが大きいと思われるときだけ、素早く手助けするようにしましょう。
朝起きてパジャマから普段着に着替える作業は、清潔を保つことだけでなく、一日のメリハリをつけることにも役立っています。また自分で自分の好きな服を着られるということは、本人の自尊心を高めることにもつながります。
ボタンやファスナーなどがあって着るのが難しい場合は、少し大きめのサイズや伸縮性の高い服、マジックテープやゴムの服など、脱ぎ着しやすい服を用意するのもオススメです。
できないことは手伝いつつ、できることは自分でしてもらいながら、お互いに着替えタイムを楽しむことができたらいいですね。
麻痺・痛みがあるときは、「脱健・着患」を合言葉に
身体に麻痺や痛みがある場合、問題のない健康な方から脱ぎ、麻痺や痛みがある方から着るようにすると、スムーズに脱ぎ着ができます。これを「脱健・着患」と呼んでいます。
たとえば、右麻痺の人の上着を脱がす場合なら、不自由のない左側から袖をゆっくり抜いてもらい、その次に右側の袖を抜きます。また、上着を着せる場合なら、まず麻痺のある右側から介助者がゆっくり袖を通し、次に左の袖を通します。最後に服のシワを伸ばして整えます。
このようにすると、介助者も介助される側も、身体に負荷がかからずスムーズに服を着替えることができます。
注意することは無理のないように優しく行うこと、また麻痺側の手足を引っ張るような動作は関節を痛める恐れがあるため気をつけましょう。
服へのこだわりはどうしたらいい?
着る服へのこだわりが強すぎていつも同じ服を着ている、季節感のない服を着ようとする、おっくうがって着替えをしない、逆に着替えが多すぎるetc・・・年齢を重ねると認知症などの影響で、着替えひとつとってもさまざまな悩みが出てきます。
高齢になると気温の変化を感じにくくなり、習慣から夏なのに重ね着してしまう、冬なのに薄着でいるといった問題が起こりがちです。できるだけ衣服は体温調節がしやすいものを選ぶと良いでしょう。
吸湿性・通気性・速乾性に優れた素材なら、汗をかいたときに冷えにくいのでよりベターです。さらに寒い時期は上着やストール、帽子や手袋などの小物を使って、こまめに温度調節するようにすると良いでしょう。
また歳をとると意欲が低下し、お洒落に対しても無頓着になることがあります。こうなると、選ぶのが面倒でいつも同じ服を着たり、着替えを嫌がることにもつながりがち。
本人の好きな色や柄の服を用意したり、帽子やスカーフなどのアクセサリーでメリハリをつけるといった工夫で、お洒落をする楽しみを思い出してもらいましょう。周囲が褒めると意外と本人もその気になることがあるようです。
どうしても着替えを嫌がる場合は、何か別の理由が隠されているかもしれません。たとえば、着替えるときにいつも痛い思いをしてしまうから、部屋が寒くて服を脱ぎたくないから、以前そのスボンを穿いていてトイレを失敗してしまったから、チクチクしたりサイズが合わないなど着心地が悪いから・・・さまざまな理由が考えられます。
認知症などの影響で、自分の思いを上手に伝えられない高齢者も多くいます。無理強いをすると、介護者との信頼関係が崩れてしまうことにもつながりかねません。
着替えを嫌がることをただのワガママと片付けてしまうのではなく、そこに何か隠されたメッセージが潜んでいないか、注意して様子を観察してみましょう。
着替えは大切な介護のプロセスのひとつ
難しくてもボタン留めに挑戦したり、少し痛みがあってもがんばって袖を通すといった動作は、手先の運動になったり、関節が固まってしまうことを防ぎます。つまり高齢者にとって、着替えは単なる日常動作ではなく、リハビリの一環。
また好きな服を着て自分をキレイに装うことは、人と積極的に関わろうという気持ちや、生きる喜びを得るためには欠かせません。誰でも「変な服を着てしまって、その日は一日中誰にも会いたくなかった」なんて経験があるものです。
着替えたくなるよう本人の好みを考慮した服を用意したり、着替えの前には部屋を温めておくなど、楽しく前向きに取り組んでもらえる工夫ができると良いですね。
また介護する人にとっても、服を脱いだとき皮ふの状態がよく見えるので、乾燥や汚れ、褥瘡など異常がないかを確認するよい機会でもあります。
着替えをただの義務や習慣と思っていると、時間がかかってイライラしてしまうかもしれませんが、大切な介護のプロセスのひとつだと思えば、また違った捉え方ができるもの。こんな小さなことの積み重ねが、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=人生の質)を左右します。
少し時間がかかっても、ちょっとおかしな組み合わせでも、何ならたまには着替えなくたってOK。介護者、要介護者の両方が、ムリせず着替えタイムを楽しむくらいの余裕をもつことが、一番大切なコツかもしれません。