ベッドで寝ていることが多い人や、一日中ソファに座って過ごす人・・・気力をなくしたように見えるお年寄りでも、少しの介助でベッドから起き上がったり、ソファから立ち上がったりすることができれば、食事や排泄などできることがグンと増えます。
介護初心者の方に向けて、すぐに活用できる基本技術をご紹介するシリーズ第3回は、立ち上がりと起き上がりにスポットを当ててご紹介。相手も自分もラクになり、笑顔が増える介助の方法を少しずつ覚えていきましょう。
動きを介助する時の基本
介護では、相手の自然な動きを引き出すことが大切。ムリにひっぱったりして体を動かそうとすると、介助される人は嫌な気持ちになったり痛みを感じたりすることも。また介助をするほうにも腕や腰にムリな負担がかかり、体を壊してしまいます。
動作の前にはまず、どうして欲しいかを声かけして、相手に動かそうとしてもらうことを忘れないように。慣れないうちはまどろっこしく感じるかもしれませんが、残存機能をできるだけ活かして生活することで、筋力などが衰えるスピードを遅くすることができます。
また、体にふれるときは指先だけではなく、手のひらや指の腹を使うなど、面で触れるように気をつけて。点で触れられると力が強くかかり、「つかまれた」「つままれた」といった感覚になってしまいます。面で触れるようにすると力が分散するため、力強くてもやさしい印象になり、気持ちも伝わりやすくなりますよ。
介護される人から信頼が得られれば、介護される側・する側の双方にとって負担が軽くなり、快適な介護につながります。
ベッドからの起き上がりの方法
自分が寝ている状態から起き上がるときを思い出してみてください。まず寝返りをして横を向き、そこから肘をついて起き上がっているのではないでしょうか。この動きをなぞるようにして起き上がってもらいましょう。
まず起き上がりの前に、ベッドの柵を取り、スペースを確保するなど準備を整えましょう。麻痺がある場合は麻痺のないほうに寝返ってもらいますから、その方向へ降りられるよう、ベッドの向きも整えておきます。
仰向けに体をまっすぐ伸ばした状態から、まず寝返りをして降りる方向を向いてもらいます。(寝返りの方法についてはこちら>>介護職が知っているべき体位の変え方)そしてかかとがベッドの端から出るくらいまで、足を斜めに伸ばしてもらいます。
ここで上になったほうの手を持ち、「体を起こしていただけますか?」と声かけを。介助される人が下になっている方の肘をついて体を起こします。手はあくまで支えるだけにして、引っ張らないように気をつけましょう。
肘をついて半分体を起こすことができたら、足をベッドの下に降ろしてもらうよう声かけを。肘を伸ばしながら足を降ろすことができれば、ベッドからの起き上がりの完了です。
介護ベッドの背上げ機能を使って起き上がりを介助することもできます。
まずは「ベッドの背もたれを上げますね」と声かけをして、60度くらいまでゆっくり上げていきます。このとき、膝は上げないで伸ばしているほうが起き上がりやすいようです。
介助される人の上体を支えながら、足を降ろしてもらうよう声かけをして、動きを介助します。ベッドの端にまっすぐ座るように、姿勢を整えてあげれば完了です。
ベッドに横になるときの介助の方法
ベッドから起き上がるのとは逆に、今度は横になる方法です。基本的には起き上がりの逆の手順になります。
まずは声かけをしながらベッドの端にまっすぐ座ってもらい、まくら側にある肘を曲げながら横になってもらいます。このとき、上になっている方の手を持って支えてあげましょう。
下になっている方の肘を少し前に出しながら、上半身が横向きに寝た姿勢になったら、ベッドに足を上げてもらいます。自分で両足を上げるのが難しそうなときは、必要に応じて介助します。
ベッドの端に横向きに寝ている状態になるので、寝返りの要領で仰向けになってもらいます。最後に姿勢を整えて完了です。
椅子やベッドに座った状態からの立ち上がりの方法
まずはできるだけ椅子(またはベッド)にまっすぐ座ってもらいます。声かけをしておしりを少しずつ動かし、浅く座ってもらいます。
少し離れて介助される人の正面に立ち、両腕を伸ばして両手に掴まってもらいます。「立ち上がっていただけますか?」と声かけをして、相手のタイミングに合わせて両腕を軽く後ろに引きます。このとき、上方向に引っ張り上げないように気をつけましょう。立ち上がる瞬間、少し相手に引っ張られる感じがしますが、ぐらつかないようにしっかり支えます。相手が完全に立ち上がって安定するまで、手は離さず持っておきましょう。
立ち上がりやすい椅子やベッド、トイレ、車いすは?
立ち上がる時には足首を膝よりも手前に引く必要があるため、ソファや収納付きベッドなどで下に空間がなく、かかとが入らないような構造になっていると立ち上がるのが難しいことを知っておきましょう。ポータブルトイレを選ぶ際は、足下にかかとが引ける空間があるかどうかチェックが必要です。
またおしりが沈んでしまうほど柔らかいソファや、折りたたみ椅子もぐらついて危険なので立ち上がりの練習には不向き。椅子は安定感があり、座ったときに足のうらがすべて床に着く高さのものを選びましょう。
ベッドの場合は高さが低すぎたり、マットレスが柔らかすぎたりしても立ち上がりにくいでしょう。マットレスは少し硬め、高さはやや高めにしておくと立ち上がりやすいようです。
車いすはアームサポートやフットサポートが取外し可能なタイプがおすすめ。立ち上がりや移乗のときは、余計なものがない方が介助しやすくなります。
準備や声かけで介助がグンとラクになる
朝起きて、ベッドから起き上がるとき、椅子から立ち上がるとき・・・ふだん自分はどのように重心移動しているでしょうか。動きをよく観察してみると、自分では意識していなくても、一瞬の間に意外と複雑な動きをしていることが分かります。ふだん見過ごしている自然な動きをあらためて意識し、ていねいになぞるようにすることがムリのない介助のコツ。
また、相手と息を合わせることも重要ですから、視線を合わせてこまめに声かけするなど、コミュニケーションも大切です。初めのうちはうまくできなくて当然ですから、まずは健常者同士で練習してみるといいですね。
意外と見落としがちなのが、椅子やベッドの選び方、置き方など。できないのは環境や道具のせいだったということもあり得ますから、「そういえば考えたことなかったな」という方は、少し注意して身の回りをチェックしてみてくださいね。
参考文献:プロが教える本当に役立つ介護術(監修者:福辺節子)