これから介護を始める人や介護初心者の方に向けて、すぐに活用できる基本技術をご紹介するシリーズ。第1回は上手な声かけについてお伝えします。
同じことをするのでも、声のかけ方ひとつでスムーズにいくこともあれば、うまくいかずにお互いにストレスを感じてしまうこともあります。知っておくと役に立つ、上手な声かけの具体例もたくさんご紹介していきます!
介護での関わり方の基本
介護をするときの基本スタンスは、あくまでも本人の「自立を支える」こと。なんでも介護者が手を出してやってしまうと、今できることもできなくなってしまいます。介護の世界では「親切すぎるのは不親切」と覚えておきましょう。
たとえば、手指の動きが悪くて食事をこぼしてしまう場合。そんなときは口まで食べ物を運んであげるのではなく、ユニバーサルデザインのスプーンやお皿を使って、自分で食べるのを見守るようにします。また、ボタンを留められず1人で着替えられない場合は、介護者が留めてあげるのではなく、ボタンをマジックテープに変えて自分で着替えられるようにするなど。できることとできないことを見極めて、介護者は必要な手助けにとどめることが大切です。
そのためには、何ができて何ができないのか、要介護者のことをよく観察して知ることが第一。声かけをするときにも、命令や否定など、決めつけたり押し付けたりするような言葉は使わないようにしましょう。
上手な声かけの具体例
初めての介護では、具体的にどんな言葉をかければよいのか分からず、困ることがあります。そんなときは、下記のような言い方を参考にしてみてくださいね。
気持ちを明るくする声かけ
- 朝のあいさつの例
「おはようございます、○○さん」
「よく眠れましたか?」「体調はどうですか?」
「今日はいい天気ですよ」
ただのあいさつにも、名前をつけて呼ぶと親しみが増します。体調や天気の話もいいですね。 - 就寝のあいさつの例
「いい夢をみてゆっくり休んでくださいね」
「また明日ね」
高齢になると寝たくても目が覚めてしまうことがあります。それをとがめるような言い方をしないように気をつけましょう。 - 食事のときの声かけの例
「今日のメニューは○○ですよ」
「これは○○の煮付けですよ」
「おいしいですか?」
「ゆっくり食べてくださいね」
こぼしたり食べるのがゆっくりでも、急かしたりしないように気をつけて。介護食は刻んであったりして原形が分からないこともあるので、何を食べているのか分かるように説明してあげると食欲がわいてきます。 - おむつ交換のときの声かけの例
「下着を替えましょうね」
「寒くありませんか?」
ニオイや汚れのことには触れないように。本人の心を傷つけてしまうと、排泄を我慢して便秘になってしまうこともあります。すばやくササッと片付けてあげましょう。
不安を取り除く声かけ
介護を受けている人からすれば、これから何をされるのか分からないで体に触られるのは、とても不安なもの。何かするときには黙ったままではなく、必ず声をかけながら行なうようにします。
- 寝返りや移動の介助などの声かけの例
「今から横を向きますよ」
「体にさわりますよ」
「車いすに移りましょうね」
「寒くないですか?」
今から何をしようとしているのかをひとつひとつ説明して、本人の協力を得ながら行えば、介護者であるあなたの負担も減らすことができるのです。 - 車いすでの移動時の声かけの例
「さあ、押しますよ」
「寒くないですか?」
「この先段差がありますよ」
「前を少し上げますね」
「少し坂になっているのでブレーキをかけながら降りますね」
車いすに座っていると、介護者が車いすを押している様子は見えないため、要介護者は特に不安を感じやすいもの。車いすは黙って押さず、こまめに声をかけながら進みましょう。
聞き取りやすい話し方の工夫
音が聞き取りづらくなる老人性難聴は、女性よりも男性に多いようです。相手の話していることが聞き取れないのは、本人にとってはつらいもの。会話が嫌になってしまうと、周囲との交流が減り、いろいろなことへの意欲が減退してしまいます。
老人性難聴では特に高音域が聞き取りづらくなるので、甲高い声よりも少し低めの声を意識して話すようにしましょう。また認知機能が衰えているお年寄りの場合、早口で話しても理解できないことも。できるだけ歯切れよく、分かりやすく、ゆっくりと話すことを心がけましょう。
寝ている相手や車いすに座っている相手には、威圧感を与えないように、しゃがんで目線を同じ高さに合わせて話すのもオススメです。
思いやりのある声かけが介護をスムーズにする
人に対して人がサービスを行なう介護は、介護者と要介護者で走る二人三脚のようなもの。相手が積極的にそうしようと思ってくれないと、何をするにも2倍3倍の手間と労力がかかってしまいます。これは介護者にとっても要介護者にとっても不幸なこと。
寝返りひとつにも、本人がそうしようと思う意欲を引き出すのは、思いやりのある声かけです。忙しいときこそ、相手の気持ちに寄り添う声かけを忘れないようにしましょう。二人三脚の息がぴったり合うようになれば、介護のやりがいや楽しさがぐっと身近なものになってくるでしょう。