認知症の接し方〈基本編〉 5つのポイントでうまくいく

使えるハウツー

高齢者と2人で笑う介護士
認知症の人って、なんだか気難しそうで怖い。正直、どう接したらいいのか分からない・・・。そんなふうに思ったことはありませんか?
介護のお仕事をしていれば、こちらの言うことを聞いてくれなかったり、どうも会話が成り立たなくて困ったという経験がある人も、きっと少なくないことでしょう。

認知症は脳の病気ですが、その人らしさのすべてが失われるわけではありません。確かにできないことや失われるものも多いけれど、しっかりと残っているものもあるのです。
認知症が進んでも最後まで残されるもの、そのひとつが「感情」です。

認知症の方は、「うれしい」「好き」「楽しい」といった「快」の感情、さらに「嫌い」「悲しい」「苦しい」といった「不快」の感情を、時には私たち以上にしっかりと感じ取ることができます。
まずはそのことを念頭におきながら、認知症の方との接し方で必ず押さえておきたいポイントについて、一緒に学んでいきましょう。

認知症の人の、心のなかを想像しよう

「今から会社に行く」と言い出して、こちらが何を言っても聞いてくれない利用者の方がいます。
「さあ着きましたよ、車から降りてくださいね」と言っても、怖がって降りようとしない方もいます。

そんなとき「困るなあ、もう会社なんて行ってないのに・・・」「何も危険なものなんてないのに、何言ってるんだろう」と思うのが普通です。でもその人にとっては「会社で活躍している自分が現実」「車の外は実際にとても危険」なので、周囲から何を言われても納得できないのです。

自分におきかえて考えてみましょう。たくさんの仕事が山積みになって同僚が困っているというのに、急に「今日から会社に行かなくていいよ」と言われても、納得できませんよね。
崖っぷちに車を停められて、「さあ、安全だから降りてください」と言われても、絶対に降りるのはお断りです。場合によっては「よってたかってみんなで自分を騙しているのでは?」と考えるかもしれません。
まさにこれが、認知症の人が感じている世界。認知症ケアには、本人のいる世界を想像し、その感情に寄り添うことが大切です。

ただ、頭ではわかっていても、必要な介護ケアを進めるなかでは、なかなか難しいのも現実。
最近注目されている新しい試みとして、バーチャルリアリティ(VR)の技術を使って、認知症の人の見え方を体験するというものがあります。
どこか他人事だった世界も自分で体験してみると、「え!?こんな世界を見ていたの?」と驚くかもしれません。認知症介護への意識が変わるきっかけになったという人も多いようです。

>VR認知症プロジェクト

認知症の接し方:ポイント1.ゆっくり待つ

車椅子の高齢者を気遣う介護士
認知症の人は、脳に入ってきた情報の意味を理解し、次の行動を起こすのに時間がかかります。
だから、なにをするにも時間がかかるのは当たり前。急かさずにゆっくり反応を待つようにしましょう。

「いつもゆっくりするようには心がけているけど、反応がない」「何度言っても理解してくれない」という人も、客観的に時間を計ってみれば、実際には数秒程度しか待っていないことも多いもの。
文章は短めにして、自分が思う以上にゆっくり、はっきりと話すようにすることや、話しかけてから3分たっても返事がなければ、もう一度聞いてみるなどの方法を試してみましょう。

いつも私たちがしている会話や動作のペースからすると、とんでもなくのんびりしていると感じるかもしれません。でも、認知症の人にふだんのペースで話してしまうと、理解が追いつかず会話が成り立たなくなることも多いのです。
「このくらい時間がかかる、これが普通なんだ」と考えるようにすればイライラしなくてすみますよ。

認知症の接し方:ポイント2.責めない、怒らない

トイレの失敗や作り話、性的逸脱行為etc・・・ショッキングな場面に遭遇すると、つい腹が立って本人を責めたり、強く言いたくなりますね。
でも認知症の場合、問題行為は認知症のせいで起こしているものなので、責めたところでその行為がなくなることはありません。そもそもなぜ怒られているのか理解することさえ難しいのです。

ですから怒られると、怖かった感情、嫌な思いをした記憶だけが心に刻まれてしまいます。「怖い」「不安」といった気持ちが大きくなると、よけいに認知症の問題行動や、よくない心理症状をひきおこします。

カッとしたら、心のなかで3秒数える「ストップシンキング(思考停止)」という方法を試してみてください。たいていは3秒数えている間に冷静さを取り戻すことができます。

3秒たっても怒りの気持ちが消えないときは、心のなかで呪文を唱える「コーピングマントラ」という手法もおすすめ。「よくあること、想定内」「大丈夫、きっとうまくいく」「なんとかなるさ」など、自分が共感できて気持ちが落ち着く呪文を、あらかじめ決めておきましょう。

認知症の接し方:ポイント3.楽しい雰囲気をつくる

高齢者と向き合い、楽しい雰囲気づくりを
介護する人を悩ませる認知症の周辺症状(BPSD)は、本人が安心してリラックスすることで、大きく軽減できるといわれています。
積極的に「心地良い」「楽しい」「うれしい」といった感情を記憶に残すことで、本人の状態が落ち着き、次の介護もやりやすくなります。

逆にいえば、いくら筋道を立てて説得されても、自分の心が動かなければ行動に移してくれません。スタッフが焦っていたり、絶対に言うことを聞かせようと強硬な気持ちになっていると、認知症の人はそれを敏感に感じ取ります。

たとえば頑固に入浴を拒否する利用者には、ムリに勧めるのではなく、なんだか「楽しい」「うれしい」という気持ちになってもらう方が得策。笑顔で「○○さん、今日は顔色がいいですね!」「お顔が見れてうれしいです」などと伝えながら、さりげなく誘導するうちにうまくいくことがあります。

認知症の接し方:ポイント4.良いところを見つけてほめる

ほめられると誰でもうれしいですね。無意識のうちに、「もっとがんばろう!」と気持ちが前向きになるものです。
認知症の症状がある方でもそれは同じ。「うれしい」という感情記憶は心に深く刻まれて、それによって他の記憶が戻ることもあるようです。

ただ、子ども扱いして「ご飯全部食べてえらいね〜」「上手にできてすごいね〜」ではダメ。
認知症の方は、すべての記憶がなくなるわけではありません。これまでの長い人生を、努力と苦労を重ねながら生きてきたというプライドがあります。

たとえば大企業の社長に向かって、「社長、ご飯が全部食べられてえらいですね〜」という新入社員はいませんよね。経験も実績も自分とは比べ物にならない大先輩に対して、失礼すぎるコメントです。

たとえばお裁縫やお料理、大工仕事や書道、俳句・・・誰にでも得意分野がありますから、よく観察してみてください。あなたが「本当にすごい!」と思えることを心から褒めれば、その尊敬の気持ちが相手に伝わり、認知症の症状にも良い影響を与えます。

認知症の接し方:ポイント5.ありがとうの気持ちを伝える

接し方4で伝えた「褒める」というテクニックですが、なかなか毎日頻繁に、心から褒めたいと思う場面は出てきません。
そんなとき「褒める」とあわせて意識していきたいのが、「ありがとうの気持ちを伝える」こと。

介護を行うなかで、「ケアに協力してくれてありがとう」「楽しいお喋りの時間をありがとう」と、こまめに感謝の気持ちを伝えてみてください。
先ほどの「ご飯が全部食べられた」「制作物が上手にできた」といった些細なことも、「すごいですね」ではなく「ありがとうございます」という感謝に変えれば、いくらでも伝えてOK。

自分が誰かに良いことをしてあげられた、と感じるとき、人は何よりもうれしいと感じます。その温かい感情が、認知症には何よりの薬。感謝できるポイントを見つけたら、その気持ちをどんどん伝えていきましょう。

認知症ケアでは、理屈より「感情」を大切に

高齢者と楽しく話す
どんなことでも物の見方を変えれば、世の中は違って見えるもの。
とくに認知症は、相手に見えている世界と、自分の見ている世界がそもそも大きく違います。自分の尺度で考えてしまうと、お互いにケアでストレスをためてしまいがちです。

介護職として、認知症についての知識はひと通り身につけていても、どこか他人事のように感じていると、なかなか現状から一歩抜け出すことができません。

自分がもし相手の立場で、相手の世界に生きているなら、こう言われてどう感じるか。どんなふうにサポートしてほしいか・・・。
「これが済んだからOK」ではなく、もう一段だけ掘り下げて相手の気持ちを想像してみることで、次のケアがスムーズになったり、症状の改善につながることがあります。

認知症の方との接し方で困ったら、理屈よりも「相手の感情」を大切にすること、覚えておいてくださいね。

>認知症の接し方〈基本編〉 5つのポイントでうまくいく

>認知症の接し方(1)「ゆっくり話す」コツと方法

>認知症の接し方(2)怒らない対応で「困った」を解決!

>認知症の接し方(3)楽しい雰囲気づくりの大切さ

>認知症の接し方(4)ほめる大切さと上手なほめ方Q&A

>認知症の接し方(5)心からのありがとうを伝えよう

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