認知症の人への接し方で、ほめることの大切さはよく言われることですね。
「自分も先輩のように上手くほめられるようになりたい。でも、何をどうほめたらいいんだろう・・・」「ほめようとしても、どこか白々しくなってしまう・・・」
そんな悩みを持っている介護職の方のために、具体的な伝え方の例や、うまくほめられない原因、ほめることのメリットなどを、Q&A形式でご紹介します。
ほめることを潤滑油にすれば、認知症の利用者さんと笑顔の絶えない関係を築くことも難しくありません。あなたの毎日のお仕事でも、当てはまるシーンでぜひ使ってみてください。
Q.どんなタイミングでほめたらいいのでしょう?
A1.その方の好きなこと、得意なことなら何でもOKです
何かを説明してくれたときはほめるチャンスです!「そうですか」で終わらせてしまわず、「お詳しいですね」「話がお上手ですね」と返してみましょう。
レクリエーションやお茶出しなど、ちょっとしたお手伝いをしてくれたときには「よく気がついてくれるから、助かります」「いつもありがとうございます。〇〇さんがいると百人力だわ」などと感謝しつつほめてみましょう。
他の利用者を手助けしているところを見つけたら、すかさず「やさしいですね」「〇〇さんがいると場が楽しくなるわ」などと声をかけてみてください。言われた方はうれしくなり、「もっとやってみよう」という気になるものです。
ニコニコしている人がいたら「〇〇さんの笑顔を見るとホッとするわ」「こっちまでなんだか楽しくなります」「元気がもらえます」などとほめてみてください。
A2.人生の先輩としてほめてみましょう
昔からの知恵や、参考になる話を聞かせてもらったときは、教えてもらってうれしい、そんな経験をされた○○さんはすごい、と思う気持ちを素直に伝えましょう。相手の方が積み重ねてきた経験や知識は、いうまでもなく尊敬に値するものです。
そうはいっても、同じ話を何度も聞いていると、ついイライラしてしまうこともありますね。でも認知症の方は、以前あなたに話したことがあるということを忘れています。つっけんどん(態度や言葉遣いがとげとげしく、無愛想なさまのこと)な対応をされると、自分を否定されたような気分になってしまいます。
初めて聞いた話ではなくても、何度でも「勉強になります。ありがとう」「学ばせてもらうことがたくさんあります」と伝えましょう。利用者さんは自分が尊敬されていると感じることができ、自尊心を持つことができます。
認知症の症状の出方には波があるので、相手の方への敬意を忘れないでいると、ときどきこちらがハッとさせられる深い一言が聞けることも。それこそが認知症ケアの醍醐味だという人もいます。
A3.自分から何かをしてくれたときは、ほめるチャンスです
自分から積極的に何かをやってくれたとき、さり気なくほめるようにしてみましょう。
歯磨きがきちんとできたことを確認したら「完璧ですよ。○○さんがこうして毎日歯を大切にされているから、歯も綺麗に残ってくれているんですね」、洗顔したら「男前になりましたね」「べっぴんさんになりましたね」など。
レクに来てくれたら「わあ!よく来てくださいましたね。待っていたんですよ」などと伝えましょう。
認知症の人は、物を正しく認識できなかったり、言葉に詰まってしまったりと、ちょっとした日常動作にも難しさを感じているので、何をするのもおっくうになってしまいがちです。
でも大変だから、おっくうだからと何もしないでいるのは、精神的にも身体的にもよくありません。ほめられるとちょっとうれしくなり、「やってみようか」という気持ちになれるので、自発的に何かをされたら見逃さず、「ほめる」を実践してみてくださいね。
Q. ほめるとき、認知症の人にやってはいけないことはありますか?
A1. 子ども扱いをしないよう気をつけましょう。
相手は人生の先輩です。「すごいね〜」「えらいね〜」といった漠然としたほめ方は、馬鹿にされていると感じることもあるので注意が必要。ほめたいな、と思ったら、何をすごいと思ったのか、事実を細かく具体的に伝えるようにすると上手くいきます。
たとえば「さすがいつも丁寧な○○さん。仕上がりがきれいですね」「○○さんが淹れてくれたお茶は、おいしいですね」など。
また「ほめる」は、下手をすると上から目線になる場合もあります。そうならないようにするには、結果ではなく行動をほめることを覚えておきましょう。また、レベル評価するような発言や、誰かとくらべたりするのもNGです。
NG例:「だいぶできるようになりましたね〜」「うまいうまい、○○さんよりうまいですよ」
OK例:「○○さんの笑顔がたくさん見れて私もうれしかったです」「後片付けまでしてくださって、ありがとうございます」
A2. しっかり視界に入って、目を見て伝えましょう。
認知症の人は視界が狭くなっているので、後ろや横、斜め前など正面以外が見えていないことがあります。
そのため、ほめるときも上から見下ろしたり、横を向いて何か作業をしながらや、相手をちらっとしか見ないといった態度では、せっかくほめても伝わっていません。
横から急に視界に入ると、相手をびっくりさせてしまうこともあるので、まず正面から相手の視界に入り、近づいていきます。そして座っている方、寝ている方とは水平に目線が合うように、自分の姿勢を低くしましょう。背が曲がって下を向いている方なら、下から見上げるように。
相手の方としっかり目線を合わせてほめれば、気持ちが上手に伝わります。
Q. ほめると、どんなメリットがあるのですか?
A. 自分に自信がつき、生きる力につながります。
認知症の初期はできないことが多くなり、そのわけも分からず、本人は大きなショックを受けています。「自分が情けない」「屈辱的だ」「家族に迷惑をかけている」といった自己否定の気持ちでいっぱいになっていることも多いです。
こうした気持ちが興奮や不安を呼び起こし、介護拒否や徘徊、暴言といった認知症の周辺症状(BPSD)につながることも少なくありません。
そんなとき周囲が、その人の良いところ、できることを見つけてほめれば、「私も役に立てる」「自分は大切な存在なんだ」と、心の充足を感じることができます。脳の血流も良くなり、瞳がキラキラと輝いてきます。
認知症では「誰々にこんな風にほめられた」という具体的な事実は忘れてしまっても、その時に幸せを感じたという感情記憶はしっかりと残ります。心が満足し、生きる意欲が持てることが、状態の安定につながるのです。
Q.ほめるポイントが見つからないのですが・・・
A. そんなときは、無理をしないで見守って。
いくら本やネットで「認知症にはほめることがいい」と書いてあったからといって、無理にほめることになるのならやめておきましょう。
もしもあなたが電車のなかで、知らない人に突然「わあ〜、ちゃんと電車に乗れてえらいね〜」と言われたらどう感じますか?「何この人!?」と感じ、逃げ出すのではないでしょうか。
認知症の人も同じです。人間関係ができていない人から突然ほめられても、うれしいよりも戸惑いの方が大きいでしょう。「子ども扱いされた!」と怒り出す人もいるかもしれません。
ほめるポイントが見つからないのは、まだあなたがその方のことをよく知らない、関係ができていないからではないでしょうか。そんなときは焦らずムリせず、毎日のふれあいを積み重ねていってください(ただしもちろん、相手の良いところを見つけようとする意識はいつも持っていてくださいね)。
認知症の人は短期記憶は忘れてしまいますが、あなたと過ごした時間の心地よさはちゃんと覚えています。繰り返し接するなかで、認知症の人があなたを認識してくれるようになった頃には、あなたの方もいつの間にか、ほめるポイントがたくさん見えていることでしょう。
ほめるための想像力と感性をみがこう
認知症であっても、介護してくれる人には気を遣っているものです。目の前で今の自分を助けてくれる人を大事にしたいと思っていますし、喜ばせたいと思っています。
そんな人からほめられるのは、単純にうれしいものです。うれしい気持ち、幸せな気持ちは、認知症には一番の薬。できるだけ「心を込めてほめる」、そんな機会を増やしたいですね。
そして、ほめるためには「できないこと」より「できること」に目を向けることが大切です。ご家族は、昔の本人を知っているだけに「なぜ、こんなこともできなくなったんだろう・・・」となりがち。今の状態に向き合っている介護者の私たちだからこそ、持てる視点があります。「ほめる」は大切な介護技術でもあるのです。
相手の良いところを見つけるためには、想像力を働かせること。「苦手だから」「忙しいから」と逃げないで、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
参考文献:「認知症は接し方で100%変わる!」 吉田勝明 著